『君と まわり道』 13

 暗闇の中で、バイブ音とともに点滅する携帯のLEDライト。枕もとに置いたソレに手を伸ばしてみる。夜中に誰からの電話だろうか・・・・目を擦って画面を見ると、そこに表示されている名前を見て胸の鼓動が大きく跳ねた。- 拓海「・・・はい、・・・」掠れた声で返事をすると『アツシ!!大変だ、拓海が運ばれたッ!!』と、その声はミサキのもので、拓海の携帯からかけてきた様だった。「運ばれたって、......どこに?」『聖華病...

『君と まわり道』 12

 山野辺さんの家までは、バスで15分。仕事が終わると、ビルの通用口は食品売り場の出店で賑わう。売れ残った惣菜やケーキなんかが格安で売られているから、その日の食料には事欠かなかった。山野辺さんにいくつか買ってもらうと、オレは荷物を持って後ろを付いていく。バスの中は、もちろん混んでいるから座るなんて出来ないが、食料品が崩れない様に胸の前で大切に抱きかかえると、その姿を見て山野辺さんが噴き出した。そんなに...

『君と まわり道』 11

 ネカフェでシャワーを浴びたオレは、髪の毛も半乾きのまま急いで駅ビルに入って行く。社員の通用口を通る時、いつもの警備員のおじさんにジロツと見られて焦る。ちょっと不審人物に見られるかも・・・・・。「おはよう。」「あ、おはようございます。」「一応、身なりに気を付けてね!」「・・・は~い。」オレは、返事をするとロッカールームに行き、鏡の前に立つと髪の毛を見る。眉毛に掛かった前髪がうるさくて、指でとかすと...

『君と まわり道』 10

  灯りを挟んで対峙するオレと拓海。その距離は、殴り掛かれば容易に拳が届く。多分オレの顔面にモロだ.........。でも、拓海はじっとしたまま動かないでいた。オレの顔をじっと睨みつけたまま。- どうしようか........、ここであの事を言ってしまおうか。オレの鼓動は早鐘のように鳴り出した。言いたくて言いたくて、でもずっと言えなかった言葉。それを松原に指摘されて、アイツの思惑どうりだったかもしれないが、それに乗っ...

『君と まわり道』 09

 街灯の灯りだけが、暗闇に光るシャワーのように降り注ぐと、その下で気持ちの持って行き場を失ったオレはたたずむばかり。- ミサキの新しい男って.........そんな事を考えては、自分の今までを反省する。「ヒモ男って.......、そういや部屋代を入れるって言ったら、その内に貰うからって言われたまんま払ってなかったな。」『なに、独り言言ってるんだよ?!こんな夜中に、気持ち悪いなぁ。大丈夫か?』「え?・・・」声のする...

『君と まわり道』 08

 流石にこの時間帯ともなると、年齢層の高い客に押され気味になる。女の子二人に、男のオレが一人っていう傍目から見たら羨ましがられるシチュエーションで、十時近くまで粘っていたが、そろそろ疲れもピークに達してきた。昨夜はゲイバーでちょっとだけ飲むつもりが、誘われた相手が好みの顔だったから、その子の自宅まで行っちゃって朝帰り。で、今朝はミサキに放り出され、今に至る。「アツシくん、そろそろ眠そうな目になって...

『君と まわり道』 07

 ダイニングバー’マシュー’の中で、オレの周りだけ空気が凍り付いたように感じた。『松原あけみ』という名前を聞いて、オレの身体は硬直する。拓海がオレに通夜の事を言わなかったのも納得した。言わなかった、というよりは言いたくなかったんだろうな・・・・「渡部は今何やってんの?就活の時、Y社で面接一緒になったのが最後か?!俺、そこの営業やってるんだ。」「..............へぇ、..............そうか..............」...

『君と まわり道』 06

 レジカウンターで、お客を見送るチアキちゃんに目配せをすると、オレの近くへ来てくれた。「--マシューって店知ってる?スクランブル交差点の近くの。」と聞くオレに「うん、知ってる。ダイニングバーでしょ?」と確認されて「そう」と告げるとチアキちゃんが時計を見た。「じゃあ、7時半ごろになるけど待っててくれる?」「ああ、いいよ。適当にしているから、後で来てよ。じゃあね」レジの奥で店長が見ているから、手短に話し...