『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-28

 さっきから変な感じがするのは俺だけだろうか。 昼ご飯を何にしようかと、いろんな店のメニューを見て歩くが、俺と田嶋くんの後ろで吉田くんの足が進まない。振り返ると、慌てて追いつく感じで、ぼんやりしているようにも見えた。「ここにしますか?席も空いていそうだし、本格的なオムレツっていうのを食べてみたいんで。」 田嶋くんはオムレツの専門店の前で立ち止まると、俺たちに振り向いていう。なんだか子供みたいだけど...

『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-27

 強い日差しが差し込むリビングのカーテンとガラス戸を開けると、外の空気を取り込む。 マンションのベランダ越しから見る景色はいつもと変わらないのに、田嶋くんの胸の内を聞いてしまった俺には新鮮に映った。 ドアの淵に手をやると、自分に何が出来るのだろうと思案する。俺が田嶋くんにしてやれる事なんかあるのだろうか。「今日は何か予定あるの?」 振り返って田嶋くんに聞くと、「特には何も.....。アルバイトは不定期...

『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-26

 唐突な質問をしてしまったと思うが、その答えを聞かないと先には進めない。もちろん俺が聞いたからと言って良いアドバイスが出来る訳でもないが....。「それは..........、最近になって正直そうなんじゃないかって、思うようになりました。僕は身体も華奢だし、今まで女の子と付き合っても、結局はみんな男らしい人の方へ行ってしまう。それに.........、」 そこまで言うと口を閉ざす。「............、ごめん。こんな面識も浅...

『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-25

 リビングのソファーの上で膝を抱えて座る田嶋くん。 アツシが快く泊まる事を承諾してしまい、焦った俺は和室の襖を硬く閉じると、そうっと押し入れから布団を取り出して畳の上に敷いた。さっきまで此処で寝ていたような具合に布団をはだけると、わざと枕を横にずらしたりなんかして......。「あれから部屋に戻って何か言われたの?」と、アツシが田嶋くんに尋ねるが、返事は聞こえてこなかった。 俺は和室から顔を出すと、「ど...

『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-24

 最初に意識したのがいつだったのかは忘れた。でも、アツシを近くで見ていた俺は、そこに居るのが当たり前のように感じて過ごしてきた。高校生の頃、まだアツシがゲイだなんて知らない俺は、いつも不思議に思っていたんだ。 アツシは女子にモテるのに、誰かひとりと付き合う気配は無くて、俺や杉本たちと居る方が多かったから、きっと何処かに本命の彼女が居るのだと噂されていた。もちろん俺はそんな娘なんか居ないのを知ってい...

『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-23

「すみません、僕帰ります。」 田嶋くんがソファーから腰をあげると言うが、「いいよ、遠慮しなくても。気分が良くなるまで居ればいい。」とアツシが手を掴んで引き留める。「おい、帰るって言ってんのに...........。」 俺はちょっとイラついて、アツシに言った。 俺のいない間にどういう会話がされたのか分からないまま、何故だかアツシは田嶋くんを庇うような言い方をする。何があったんだ?「拓海は、さっきの女の子の事、...

『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-22

 もうすっかり暗くなった道を吉田くんと並んで歩く。 最初の印象とは違って、屈託なく話す性格なんだと分かった。あの村上くんと仲良く出来るのが不思議だが、俺は彼の事を良くは知らない。きっと吉田くんとは通じる部分があるんだろうと思う。「山城さんは、もう一人の人とはいつからの知り合いですか?」「アツシ?!.......中学から、だけど。」 吉田くんに聞かれて答えたが、そう言えばまだ吉田くんはアツシと出会っていな...

『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-21

「------なにやってんの?」 俺にそう言ったのはアツシで-----。隣にいる田嶋くんも赤い目をして俺を見た。「あ、ああ、えっと、...................」「帰ります。すみません、お邪魔しましたッ!」 俺の腕から慌てて出た彼女は、パンプスをつっかけながら玄関のドアをくぐるとアツシたちの前を横切って走り去った。「なに?アレ..............、どっかで見たような子。」 アツシが目で追うと言ったが、俺は何も言わずにリビン...

『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-20

 まさか西さんとの会話に出てきた夏目さんが、俺のマンションにやって来るだなんて予想だにしていなくて、玄関までの短い廊下を躓きながら走ると、慌てて玄関のドアを開けた。「あ------」 女の子の泣き顔は、はっきり言って苦手だ。掛ける言葉もみつからなくて固まってしまう。「あの、..............えっと、...............どうした?」 やっと声を掛けると、彼女は押さえた鼻の頭から手を離す。涙が頬を伝っているが、それ...

『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-19

 翌日になると、アツシの火傷の傷も少しだけ良くなった様で、薬だけは塗り込んで仕事に出かけると言うので、起こす事にする。「ちゃんと包帯とか巻いておく方がいいんじゃね?コンビニで売ってたら買えよな。」 俺は、テーブルに肘をついて半分目を閉じたアツシに向かって言う。目の前のコーヒーを眠りながら飲んでいるようで焦るが、時間がない俺はそれだけを言って玄関へと向かった。「行ってきまーす。」「行ってら~」 アツ...