『迷惑な落とし物。』番外編「お買い物」その2

 貴重な休み。しかも、引っ越し明けの、普通なら部屋でまったりとくつろいでいる時間に、俺は一人腹をたてながら並木道を歩く。後ろでは正臣がしきりに謝っているが、どうしたっていい顔は出来なかった。ソファーなんて、俺にとってはどうでもよくて.....。休日が合わない分、風呂上がりにベッドの上でゆっくりしゃべったり、触れ合ったり。それで充分だと思っていた。強い日差しは遊歩道に並ぶ木々で遮られると、キラキラと輝く...

『迷惑な落とし物。』番外編「お買い物」その1

 たまに聞く事があった。夫婦の間に流れる空気が、ものすごく重苦しくて、家出したくなるって話。けど、結局はそれも出来なくて、買い物で発散したり友人とランチをしたり。女性客が多い美容室では、そう言った話が飛び交う事もあって、俺は他人事だと思ってぼんやりと聞いていた。_____昨日の事だ。引っ越しも終わり、ダブルベッドは俺の所から運んだものを使うという事になっていて、無事設置も済んだ。で、リビングで寛ぐ...

『迷惑な落とし物。』119

 浴槽の淵に手を掛けて、ゆったり身体を沈み込ませると、その俺と向かい合う形で正臣が入って来た。さすがにお湯は溢れてしまい、綺麗な渦が床の目地を這うように流れていった。「いくら何でも、やっぱり男が二人ってのはキツイな。こういうのって女の子だから丁度いいのかも.....。」俺が正臣に向かって云う。俺には経験が無いけれど、正臣はひょっとして女の子とこうして入った事があるのかもしれない。だから入れるって言った...

『迷惑な落とし物。』118

 満腹になった腹をさすりながら、二人並んでマンションへ戻れば、さっき見忘れていた部屋の方を覗いてみる。こっちはほとんど空き室。俺の荷物が入るのを待っているように、一応カーテンだけは正臣の趣味でリビングと同じものが掛けられていた。白っぽい床板が、この季節には涼し気で、冬になったらカーペットかラグを敷こうと思う。「ベッドはどっちに置く?この部屋?」正臣に振り返って訊いてみる。「こっちはリビングと続きで...

『迷惑な落とし物。』117

 ここでキスでもしてしまえば、そのまま硬い床の上で絡み合ってしまいそうなのをなんとか堪えると、正臣の回した手をそっとほどいて玄関のドアノブに手を掛けた。「さっ、腹ごしらえしなくちゃ。」と、わざと跳ねる様に云うとドアを開ける。「だなっ!オレも腹減ったよ。」正臣は急いでスニーカーに足を入れると、ポケットからカギを出して扉を閉める。「.........ハルミにも合鍵あるからな。あとで渡す。」カギをかけ終るとニコ...

『迷惑な落とし物。』116

 人の流れに逆らうように、俺は街路樹のある舗道を走り抜ける。が、流石にこのまま正臣のマンションまで走って行くのは......無理で。丁度、目の前に乗客を降ろしているタクシーが目に入ると、閉まりそうになるドアを掴んで「乗っていいですか?」と訊いた。ハンドルを握ったままの運転手が、驚くように俺を見たが、すぐに「どうぞ。」と言ってくれる。行き先を告げてから「近くてすみません。」と、一応謝っておくが、車で10分程...

『迷惑な落とし物。』115

 視線の先に居るオーナーの天野さんは、意外と涼しい顔をしていて、逆に俺と大原さんの驚きを楽しんでいるようだった。そして、チハヤさんもまた、この場の空気を楽しんでいる。してやったりという顔で、俺と大原さんの顔を見ると、ニヤリと微笑んだ。「どういう事ですか?僕たちにどこかいけない部分があるんでしょうか?!店も決まったんですよね?!」食い下がるようにオーナーを見つめると、大原さんは訊いている。俺も、ホッ...

『迷惑な落とし物。』114

 正臣に、遅くなっても必ず行くと、メールだけ入れて向かった先はチハヤさんの店。アレキサンダーの店内は、この日が定休日のせいでお客さんはいなかった。天野さん、つまりオーナーと親しくしているよしみでこの場所を提供してくれたチハヤさん。奥のテーブル席に座る、俺とオーナーと大原さんの三人にカクテルとつまみだけを出すと、カウンター席に座って雑誌を読み出した。「チハヤくんごめんね?!お休みのところ。」「いえ、...

『迷惑な落とし物。』113

 背筋を伸ばしたまま、店長の言葉に耳を傾けると、居心地の悪さからか背中がムズムズし出して。睨みあう大原さんと店長の間で、俺はどうしていいのか分からなくなった。「ジュンくんが抜けたら此処はどうなるんですか?代わりに誰か来るのかなぁ。」台湾の件が決定ではないと云った傍から心配の声があがって、大原さんの視線は店長からスタイリストの方へ逸れた。「もし、決定になったら本店かどこかから人は来るだろ?!僕の代り...

『迷惑な落とし物。』112

 ダブルベッドで膝を抱えると、横を向いて寝転んだ。ベッドの上で見る部屋の景色。もう何年もこの目に入っているはずの景色が、今夜は妙に色褪せて見えた。ずっと一人で過ごして来た部屋に、ほんの僅かでも正臣の薫りが残っていると、それだけでもう切ない。___________俺、頑張れるだろうか- - - 翌朝、やっぱり大原さんは瞼を腫らして出勤してきた。それを見た店長は、おもむろにあきれ顔をすると「また飲み過ぎ?ハルヨシく...