『曇天の月』 085 [最終話]

 本当に驚いた時、人は言葉を失くす。そんな状況の俺は、司が平然と言い放った言葉をもう一度思い出す。「ごめん、涼介に話すの止めようかと思ったんだけど、隠してて変に取り繕うのも困るし・・・」「・・・そんな・・・・・いつ話したんだよ。今の会社に入ってからか?」俺は、今までそんな事を気にもせず普通に会話していた。いや、普通よりは少ないか。それでも、俺にしては頑張って話した方だろう。「立花さん以外で、オレの...

『曇天の月』 084

*R18入ります。互いのワイシャツのボタンを外しながら、俺は司の顎や、喉元にキスを浴びせた。早まる気持ちを押さえながらも、どんどん息遣いは荒くなり、ベルトを抜き取ると頭を庇うように手を添えて司を床に倒す。「つ、かさ・・・・・抱いていい?」「・・・・・また、確認?・・・・・い、いよ。」その言葉と共に、一気に司の唇を奪う。何度も何度も、感触を確かめるようにゆっくりと食んだ。「りょ、・・・す、け・・・・・...

『曇天の月』 083

なんだかわからないけど、司が『月』になりたいと言い出して.........。繋げる言葉を探すが、見当たらない。「え・・・・・っと。・・・・・・・どういう意味?」素直に聞いてみた。「だから、涼介が見たい時に見れる月、だよ。」「・・・・ぁあ、はぁ・・・・。ごめん、分かんねぇ。」せっかくの二人きりの場面で、俺だけがポカーンと口を開けているみたいで情けないが、司の言わんとする事が分からなくて。「オレね、お前が工場...

『曇天の月』 082

 ドアを開けて、久しぶりに司の部屋の匂いを嗅ぐと、懐かしさを覚えた俺。変な話、司の顔は毎日のように見ていたのに、匂いを嗅げていなかった。- 変態か、俺・・・・・・「その辺に適当に腰降ろしてて、今片付けるから。」「ああ・・・」テーブルに置かれた本を手にとると、昔、俺が工場の仕事を始めたころに目にしていたものだった。「これ、織の”三原組織”の資料じゃん。・・・どうして司が持ってんの?」不思議に思って聞い...

『曇天の月』 081

 「それにしても、涼介さんは相変わらず無鉄砲ですねぇ。思い立ったら即行動の人だ。」ははは、と笑いながら倉田さんが言う。会議室の中で、俺と倉田さん、司の三人で打ち合わせを終えた後に話し込んでいた。今度の一件は、司の気持ちが分からないままだったら、行動に移せていなかったと思う。俺の助けを必要とはしなかったんだ。あのまま司が外されて、俺が気分よく仕事が出来ると思ったのか・・・・?「そんなに無鉄砲なんです...

『曇天の月』 080

 新幹線のホームで待っている間、俺と司はなんとなくいつもの調子が出なくて、言葉に詰まる。来るときは勢いで飛び乗ってしまい、仕事の事を話していたから気にならなかった。でも、今は・・・・・二人で旅行にでも来たかの様な錯覚をさせる。今までは車で遊びに行ったりして、ビジネスホテルで過ごすことはあったけど、二人で新幹線に乗ったのは初めて。これでも仕事中。不謹慎に喜んだりしてはいけないんだけど・・・・・。「二...

『曇天の月』 079

 丁度来た新幹線に飛び乗れば、俺たちは並んで空いている席に座った。「は、ぁ・・・良かったな、すぐの新幹線があって。これなら昼には余裕で着くよ。」隣の司に言う。「・・・も、う・・・こんなに走るの久しぶりだよ。一本遅らせたって良かったのに。」司が息を整えながら俺を見ると言った。「ああ、・・・でも早く着く方がいいかと思って。そうすればちゃんと話もできるし、な。」「・・・涼介・・・。どうして小山商事へ?何...

『曇天の月』 078

 会議室の壁にもたれるように立ち、下を向いたままの司。こんな自信なさそうな顔は見たことが無い。いつもキッチリとして前を向き、的確な言葉を俺にくれる。俺は司に甘えるばかりで、いつもなだめてもらっていた。「司、そんなに肩に力入れるなよ。お前の働きは十分承知してる。今回のは俺にも落ち度があるんだ。」司の前で、少し距離をおくと言ったが、本当はこの腕に抱きしめてやりたかった。ここが会社でなければ、周りに人が...

『曇天の月』 077

 またもや眠れぬ夜を過ごし、明け方ようやく眠りについたかと思えば目覚ましのアラームで起こされる。- - - 「おはようございます」車から降りると立花さんから声を掛けられた。「おはようございます」昨夜の事を聞こうか迷った俺に、「昨日、妹さんと食事だったんですね。」立花さんの方から言われ、「ええ。なんか、久しぶりに顔見たらねだられて・・・。」と答える。「兄妹の仲がいいって、矢野くんが羨ましがってました。...

『曇天の月』 076

 その晩は、映見にイタリアンレストランへ連れて行かれ、普段は口にしないような料理を食べながら、周りの客を見ていた。ほとんどが男女のカップルばかりで、たまに女性同士が何人かグループで来ているようだった。俺たちも男女のカップルではあるけど、兄妹だ。普通は、こういう所でデートをするものなんだな。さすがに男の二人連れは見当たらない。「なあ、こういう店、よく来るのか?」向かいでおいしそうに頬張る映見に聞いて...