『曇天の月』 061

 朝陽が昇るのをこんなに恨めしく思ったことは無い。司が帰った後も、俺の頭の中はごちゃごちゃして、結局朝まで欝々とベッドに横たわっているだけだった。朝はコーヒーだけを口に入れて会社に向かった。なんとなく杏子ちゃんたちの顔を見るのが辛かったが、最後まで粘ってやると思いながら事務所のドアを開ける。「おはようございます。」ドアの前に居た杏子ちゃんが、俺に挨拶をするから「あ、おはよう。昨日の・・・」と言いか...

『曇天の月』 060

 二人で過ごした甘い休日はつい最近の事だったのに、どうしてこんなことに・・・・?「ダメだな、俺。すぐにカッとなって、突っ走ってしまう。・・・司の言う通りだよ、こんな俺だから工場も守れないし、社員すら守ってやれないんだ。親父の跡は継ぎたくないって言いながら、何処かで自分の持ち物みたいな気でいた。そのくせ逃げ出すみたいな事言って・・・」「涼介・・・ごめん、オレも言い過ぎた。イラついて口から出たけど、そ...

『曇天の月』 059

 ベッドの上で微かに振動が伝わるが、さっき投げた携帯が布団の上で震えていた。「・・・はい。」表示の名前を見ながら不愛想に答える。『涼介、ここ開けろよ。こんな夜に近所迷惑だし、部屋に入れてくれよ。』静かに電話の向こうでしゃべる司だったが、俺は本当に身体の力が抜けてしまっていた。片足を床に降ろすのも怠く感じる程。「・・・どうぞ」と言ってドアを開けてやるが、司の顔は見なかった。足元に視線を落としたまま。...

『曇天の月』 058

  終礼のチャイムを聞くと、実家へ飛んで帰った俺は、ギリギリと爪を噛みながら、コタツの前であぐらをかく親父を睨みつける。「怖ぇ顔すんなって、涼介。・・・聞いた通りだよ。」あっさりと言う親父は、俺の顔の前に新聞を掲げて自分の顔を隠した。「ふざけんなよ!社員も現状のままって話じゃなかったのかよ。そりゃあ豊臣の資本を100パーセント受けて文句は言えないし、俺の会社でもないけどさぁ。」バサリと新聞を横へやる...

『曇天の月』 057

 「大変です、若社長っ!」俺が事務所に入るなり、杏子ちゃんがもう一人の事務の娘と血相を変えて歩み寄ってきた。「な、なに?・・・なんかクレームあった?」二人に圧倒されて聞いてみたが、ブンブンと首を振る。「そんな事じゃなくて、・・・さっき豊臣の役員の方と弁護士さんとうちの社長がみえて・・・」そう言ったところで、杏子ちゃんは目に涙をためて口をへの字にした。・・・あ、泣く?「私たち、クビです。」もう一人の...