『曇天の月』 066

 車を運転しながらも、時折口元に手をやれば、唇に血が乾いて付いたのか、ガサガサした感触が気持ち悪くて・・・。ポケットからハンカチを取り出して擦ってみるが、ズキッと痛んで、また腹が立つ。いや、悪いのは俺なんだけど...........。自分でも、どうしてあんな事をしたのか分からない。欲求不満だったのか.....それにしても、あそこまで避けなくたっていいじゃないか。司は、俺と離れてもいいと思ってるんだ。きっと、俺には...

『曇天の月』 065

 「・・・・・・・・待てよ!」ドアに向かった司に言うと、その手を掴んで引き寄せた。咄嗟の事で体制を崩し、俺の胸にドンとぶつかると、手を伸ばして離れようとする司。俺は、その手を取り上げると近くの机に押し倒した。「オイ!なに?・・・・止めろ!!」机の上でジタバタする司の腕を頭の上に持って行くと、ゆっくり顔を近づけた。俺の目を見ると眉を寄せて、本気で怒る司の顔は、今まで見た中で一番切なそうだった。こんな...

『曇天の月』 064

 「ただいま戻りました~」事務所のドアを開けると、そう言って倉田さんが入ってきた。見ると、司の姿は無くて。「ひとりですか?」と聞く俺に、「ああ、矢野さんは豊臣に呼ばれて、そのまま行ったよ。」と言う。豊臣の方で途中の仕事があって、部下に任せてきたらしいけど、たまに呼ばれる事もある。何だかんだと言っても、司は結構やり手の営業マンだったみたいで、期日にはうるさいしあんな顔でもビシッと言う事は言うからな。...

『曇天の月』 063

 爽やかな秋の風が、俺の首筋を掠めていくが、未だに気分はスッキリしないままで。休憩室の窓から顔を出すと、煙草の煙を吐きだした。朝の新幹線で、倉田さんと司は岐阜の原料メーカーへと出向いて行った。俺が司と行くはずだったが、先週倉田さんと代わってほしいと言われ、内心ホッとしたような.......。意見の相違はあったが、杏子ちゃんたちの件は解決して、俺と司が喧嘩するような状況は無くなったのに。俺が会社を辞めると...

『曇天の月』 062

 気づけば債権者説明会から半年以上の歳月が流れ、俺の分からない所でどんどん違う世界が広がっていった。津田弁護士の力添えで新しい会社もすぐに設立され、社名を”TM工業株式会社”として再出発。俺と司は、共に営業として同じ社内で働く事になるが、ひとつだけ気になることがあった。杏子ちゃんのクビの一件で、俺と司の間には微妙な空気が流れている。距離をおこうと言い出したのは俺。それに対して司の返事はなかったが、俺た...