【曼珠沙華】 炎に落ちる132

 久々に、身体の底から憤りの感情が湧き出てきた。半ば引きずる様におーはら君を店の中に放り込むと、目を丸くして俺たちを見たのはバイトの吉田くん。「ど、どーしたんすか?......」「や、何でもないけど、ちょっと急ぎの話があって.........この子と。」「は、あ......じゃあ、オレ休憩してきていいすか?」「うん、いいよ。....ていうか、今日はもうあがっていいや。後は俺が居るから。」「..........はい、じゃあ、そうさせ...

【曼珠沙華】 炎に落ちる131

 納骨を済ませてから二週間。俺は髪をカットする為、天野さんの美容室に来ていた。「少しは落ち着いたか?」「.....ええ、」天野さんが、鏡の中に映った俺を見つめるが、その眼差しは悲哀に満ちている。「もう、落ち込んでても仕方ないから........、桂は帰って来たんだし、あの世でのんびりやっているでしょうよ。俺は、俺の出来る事をしないと.........アイツに叱られる。」天野さんの目を見ながら言うと、少しだけ表情もほぐれ...

【曼珠沙華】 炎に落ちる130

 桂の告別式は、会社の人たちもたくさん列席してくれて、用意された式場には入りきれない程の人が集まった。もちろん、桂の親父さんの関係者も多くて、俺は長谷川たち同級生と隅の方で肩を並べていた。「なんだか呆気ないな。この間まで一緒に笑っていたってのに......。千早、大丈夫か?」長谷川が俺の顔を覗くように聞いてくる。チラッと目をやると、長谷川の方が不安げな顔をしていた。「大丈夫、.......じゃない、かな。........

【曼珠沙華】 炎に落ちる129

 朝目覚めると、部屋のカーテンを開けて窓の外を見た。晴れているのを確認すると、窓を開け空気の入れ替えをして階下へ降りる。閉められた縁側の引き戸を全開にすると、外からの空気が一斉に流れ込み家じゅうを駆け抜けていった。- - - 縁側で、淹れ立てのコーヒーを一口飲めば、元通りの日常が戻ってきたような気がする。桂が日本を離れている間、俺はこうして一人暮らしを満喫していたんだ。ゆっくりと時間が流れ、その日の...

【曼珠沙華】 炎に落ちる128

 ”しばらくの間おやすみします。新商品入荷までお待ちください” 店のシャッターを閉めると、再び貼り紙をした。新商品、と書いたのは俺の希望でもあった。いつか必ずここに立てる日が来る。そう信じて、今は少しだけ心を休ませたい。桂がくれた指輪をはめて、俺は店を後にする。- - 何日か経って、桂の親父さんから連絡があった。その前に、アネキの方へメールをしていたそうだが、直に俺と話が出来ないんじゃないかと心配して...