『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-1

 蜃気楼の様にゆらめく熱風が、ビルの谷間を覆いつくす午後。俺は、午前の営業を終えて軽く昼飯を食べるため、同僚と会社近くの蕎麦屋に寄った。 蕎麦屋といっても、飲食店が入ったビルの中にある店。個室があって、前に先輩が連れて来てくれたところだったが、今まで口にした蕎麦の中では、この店のが一番美味いと思った。 カウンター席に腰を降ろすと、同僚と二人でざるそばを注文して辺りに目をやる。 時計の針は1時をまわ...

『寄り道しないで帰ろうよ。』 405号室-2

 荷解きもすっかり終わり、ひと通り片付いた部屋をぐるりと見回す。和室の畳の上に腰を降ろし、波打つ目地を指でなぞると、高校卒業まで住んでいた実家の部屋を思い出した。所どころ剥げた古い畳は、直に座るとい草のひんやりした感触が気持ちよくて.....。 さっき乾拭きをしたばかりで、俺は畳の上に横たわると大の字になって天井を眺める。ここが俺の新しい部屋。そんな事がじんわり胸にしみると、リビングのソファに座るアツ...

『寄り道しないで帰ろうよ。』 405号室-1

 ‐----405号室 部屋番号の下、ネームプレートに刻まれた二つの名前を横目で見ながら、亜麻色の床に最後の段ボール箱を置くと、ふぅ、っと溜め息をついて額の汗をタオルで拭った。 リビングの一角に寄せられた20個程の段ボール箱を眺めると、改めて自分の持ち物の少なさに驚く。しかも、荷造りをする時に気付いたが、中身はほとんどが黒系の衣類や小物ばかり。 「拓海ぃ~、お前の部屋こっちで良かったんだよな?!」そ...

『君と まわり道』 73

*少しR入ります*  帰りの電車の中は混んでいて、二人で向かい合って立っていたが、時折目が合うと拓海が真剣な眼差しを向けるから焦る。何かを語っているんだろうけど、オレはじっと凝視出来なくて、目が泳いでしまうんだ。一体、何を言いたい?それに、こんな人混みの中でオレをじっと見るなよ。隣に立つ女の子が、拓海を気にしている。オレにはなんとなく感じるんだ、そういう熱ってピンと来るもので、オレもたまにだけど’こい...

『君と まわり道』 72

 ゆっくりとインターフォンを押す拓海の指を見る。その先に、オレたちの新居となる部屋があるのかと思うと、背中が少しだけむず痒くなった。なんだか恥ずかしくて..........。「はーい」高くて通る声が聞こえて、その声は上司の奥さんだと言った拓海。「山城です、こんばんは。」「あ、今開けまーす。」そう言うとすぐにドアが開いて、ドアの向こうに見えたのは中年のおじさん。いや、拓海の上司の森口さんだった。「「こんばんは...