『曇天の月』 016



 - - - しばし、頭の中を整理する俺。
おーはらとは、別にやましい事はしていない。ただ、アイツにやったパンツ・・・あれって・・・


「オレがお前にやった誕生日プレゼント・・・・だよな?!」

司のきれいな顔からは笑みが消え、能面のような表情で俺を見て言うからビビってしまった。
- そう、確かに・・・・忘れていたけど、貰ったものだった。
ブランドに興味の無い俺は、とにかく高いパンツは出張用にと、取っておいたんだ。
あの日は仕方なく、アレしかなかったから・・・・・

「・・・・・・・ああ、そうそう、なんかアイツ飲み過ぎて漏らしてさぁ・・・仕方なく。」
我ながら苦しい言い訳。

「ふぅん・・・・。お前も?」

「え?」

「お前も漏らしたから、一緒にパンツ履き替えてたのか?そこにオレが丁度入って行ったと。」

- - いや、いやいやいや・・・そんなはずは・・・・大のおとなが。

「ん~そうかな?・・・ゴメン酔っててあんま覚えてないや。けど、おーはらとは何にもないから。」

「人が漏らしたのは覚えてんのに、自分が漏らしたかどうか覚えてないんだ・・・・?なら、ヤッたかどうかも覚えてないんだろ?」
司の顔が俺の鼻さきに近づいて来る。
久々の近距離なのに、今キスしたら絶対殴られそう・・・・・

「や、そこは覚えてるって!だって俺が司以外の野郎とエッチするわけないだろ?もう7年も司一筋なのに、さ。」



「ふぅん。・・・・・ま、いいや。その代わり、4000円。パンツの金返して。お前が穿かないなら意味ないから。アイツにやったみたいで嫌だからさ。分かるだろ?」
俺の顔から離れると言ってくるが、さすがだね。きっちりしてんな・・・・・と感心する。

「分かった・・・4000円て、たけぇな・・・!司、そんなの穿いてんの?」
俺は尻のポケットに入った財布を取り出すと、中から4000円を抜いて渡した。
この前のおーはらに2万円、パンツ代に4千円。一気に財布の中身が軽くなった。

「営業は身なりに気を付けないとな。見えないところもちゃんとしないと、自分に自信が持てないんだ。」
「へ、ぇ・・・そういうもんか。俺、ほとんど工場に居るから気にした事ないなぁ。銀行の融資の人に会う時しかスーツも着ないしさ。」
弁護士の所へ行くのも、普通の服にジャケット羽織るだけだし、自分の感覚がずれているんだろうかと心配になった。
それでなのか、あの”高級リーマン”の姿が俺の脳裏によみがえる。
- - - そうだよ、俺の事を言う前に、あいつは何者なんだよ?

「なあ、前にタクシーから降りてきたリーマンて、誰?」
俺は、少しトーンを下げて聞いた。あんまり頭ごなしに聞いたら、俺がヤキモチ焼いてるみたいだからな。
司の表情が変わるかと思ったが、平然とした顔で
「高校の時に世話になった先輩。あの日行った商社の営業が、急に都合悪くなって、代理で来たのがセンパイだったってわけ。」

「あ、そう・・・・。そうなんだ。奇遇だな?」
「十年ぶりに会ったから酒に誘われてさ。あのひと結婚してんのに、朝まで飲んじゃったから、オレが奥さんに電話して迎えに来てもらったんだよ。・・・・で、コンビニ寄ってお前んちに行ったっていうのに・・・・・」

「・・・そっか、ごめん。」
俺は恥ずかしかった。勝手にモヤモヤして勝手に酒で気を紛らわせて.......。
おーはらにも迷惑かけたし。司にも嫌な思いさせたんだもんな。

「俺って・・・ダメだな。ホント・・・・・」
うな垂れた俺は、テーブルに肘をついて両手で頭を抱える。
直情的な性格で、目の前の事にすぐかっかして、冷静に考えて行動しなくちゃいけないのに・・・・。
やっぱり、俺は経営者の器なんかじゃないな、と思う。

「なんだよぉ、らしくないなぁ・・・。」
司が俺の横へ来ると、頭に手を置いてグリグリしてくるが、俺はその手を振り払う事も出来なかった。
自分の小ささを認めたうえで、これからやってくる大きな現実に立ち向かっていくのは正直怖い。

「涼介.........。」
頭に置いた手が離れ、俺の肩を包む。
そっと、司の胸に頭を引き寄せられると、俺は目を閉じた。この胸に戻って来られて良かったと思う反面、俺なんかでいいのか。と思ってしまう自分がいた。




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