『曇天の月』 017


 司の胸の音が、トクン、トクン、と規則正しく、俺の耳に心地いいリズムを聞かせてくれる。
「どうした?先輩と居たのがショックだったのか?それとも・・・工場の事?」

そっと俺の横に座ると言ってくるが、どっちが、じゃなくて両方だった。
取り合えず、高級リーマンが妻帯者なのが分かって一安心。願わくば、今回で飲みに行くのは終わりにしてもらいたい。
もう一つは・・・・・・

「社長が言い出したのか?うちの工場買い取るって。」
横で、テーブルに肘をついた司の顔を見ると聞いた。

「うーん、・・・・・オレ、かな?!」

「え・・・お前が?何でだよ!」

「前にどこかの人が買いたいって話持ってきただろ?あの時、やっぱり来たかと思った。まあ、社長には言わなかったけどな。」

「・・・・・・・・それが、どうして?」
俺は完全に司の方にからだを向けて聞く。

「もし、業界以外の所が機械を売買する目的で工場買ったらどうなる?」

「ああ、そうだな。・・・外国へ売るんなら結構いい値段で売れるだろうな。30年前の織機でも売れるって話だし。」

「そうなったら、困るのは何処だ?うち、豊臣商事もだし、今お前んとこの製品買ってるとこは困るんだよ。物を作るってのは、昨日今日の人間でできる事じゃない。月にしたら大した金額じゃなくても、それで十年以上飯食ってるんだ。なくなったら困るだろ?」
熱く語る司を見て、俺は感動していた。
自分の仕事をそんな風に見ていてくれたなんて・・・・。

「司、お前ってすごいな..........。ホント、ありがとうな!」
司の手を取って両手で包むと、感謝を込めて言った。

「な・・・・やめろよ。気色悪い・・・・。」

「つかさ~」
思わず抱き着いて押し倒し、畳の上に寝転んだ。
首筋に鼻が当たると、Tシャツの隙間からいい匂いが上がってくる。

「風呂、入ったの?」
聞くと、「うん」といって口元が上がる。
その言葉で、俺の中の何かが溶けた。司のスウェットパンツに手をかけるとひもをほどく。が、思い切り膝で太ももを蹴られ、俺は悶絶する。
「痛ってーえ!!」

「バーカ。これからが、大事な話だろ?良く聞けよ!!」
司は体制を整えると、テーブルをはさんで俺の向かい側に座り直した。





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