『曇天の月』 021



 全身で司を感じられないのは残念だったが、久しぶりの背徳感を味わうと、俺のモヤモヤは少しだけ晴れたような気がした。
俺ってなんて単純なんだろうと、一人ニヤケながら家路に着くと、明日も早いし、ヤることやって帰ってきた俺は、直ぐにシャワーを浴びる。


バスタオルを腰に巻き付け、冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出すと、一気に半分飲んで、テーブルの上のタバコに火をつけた。

セックスの後のこの一服は美味くて、俺は深く吸い込むと、ふぅ~っと一気に吐き出す。そうすると、頭の中のモヤモヤが完全に抜けきって気持ちいいんだ。

照明を落とした薄暗い部屋に、白い煙が広がっていくが、それをぼんやりと目で追う。


- 豊臣に工場を………か。

司の言った言葉を思い返すが、どうもピンとこない。会社を清算するという事は、みんなを路頭に迷わせる事になるし。
借金減らしてもらって、いずれ会社をたたむ日がきたとしても、それまでには社員の行く末を決めてやりたいと思っていた。

ちょっと展開が早すぎて俺の頭が付いていけない。



- - -

翌朝、工場の様子を確認し、必要な電話連絡をすると、俺は実家へ足を運んだ。
前からあまり仕事はしていなかったが、再生手続きをしてからは、殆ど家に籠っている親父。
- 全く、呑気なもんだよ。

「親父イー、昨日弁護士のトコ行って来たけどさ~」
靴を脱ぎながら玄関を上がると言ったが、リビングでコタツに入ってのんびりとテレビを見ている姿を見てガッカリした。

「おぉ、涼介。津田さんなんて言ってた?」
首だけ俺の方に向けて聞く。

「あのさ、自分で行けよな!!俺は工場の仕事もあるんだからさぁ。」

「まあ、お前には勉強になるだろ?」

「はぁ・・・・これだよ・・・!!
なんか、3社ぐらいがうちの工場を買いたいって言ってきてるらしい。」

「へぇ、3社も・・・」

- まるで人ごとの様に言ってやがる。

俺がイラッとして、「こんなボロ工場、買う奴の気がしれないなぁ。」というと
「建屋はボロでも、機械は新品同様だからな。そういうのを売って儲けるとこも出てくるのさ。」
コタツの上で肘をつきながら言う親父。案外分かってるんだ、と驚いた。

「どうすんだよ、完全に”織”の世界から離れるのか?
それとも、仕事含めて買ってくれるとこにお願いするか?」

俺は、司の言ったことを親父に話した。
理解は出来た様だ。何だかんだ言ったって、俺とは年季が違うもんな。一応経営者だし.......。

「豊臣、アレ、お前の友達のとこだろ?話したのか。」
その時、俺を見た親父の顔が、何か含みのある顔だったが、素知らぬふりで「ああ。」と言った。

「あそこなら、いい具合にこの工場使ってくれるんじゃないかな。親父、売るか?」
俺は、少々緊張しながら言うが、「そうだなぁ・・・・・」ともう一つ煮え切らない返事だった。

司が、親父に頼んでくれって言ったけど、このまま自分たちの手で続ける道も捨てきれない俺は、完全に気乗りしたわけではなかった。今さら焦った所で仕方がない。社員にとって一番いい方法を考えようと思う。





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