『曇天の月』 024


 壁の時計を見る。
3時10分・・・・そろそろ司が来る頃だ。

「若社長、矢野さんてコーヒーで良かったんですよね?」

「だから......... 」 と言いかけて止めた。もう杏子ちゃんには、若社長と呼ばせよう。
「いいよ、コーヒーで。あとチーズケーキにして。」

「はーい。若社長もチーズケーキなら食べますもんね?!一緒ですね。」
杏子ちゃんの何気ない一言を気にする俺は、小さい男。一緒、と言われてヒヤッとする自分がいる。




コンコン、、ノックの音がして、司がドアから顔を覗かせる。

「いらっしゃいませ。」事務所に居る社員から挨拶されて、ニコリと笑顔になると
「失礼します。」と言って入ってきた。

あの、乱れた夜の熱い瞳はここには無くて、キリリと締まった顔の男がこちらに向かって歩いてくる。
つくづくイケメン、いや”美男子”という言葉がピッタリ。

「どうぞこちらへ。」そういうと、奥の来客用のソファーに案内する。

何度かは、ここにも来ているが、まだ親父が事務所に来ていた頃で、俺と二人きりで会う事はなかった。
なんだか変な感じ・・・・・

「社長はお元気ですか?」と、司が聞いてくる。
「ええ、まあ、ナントカやってますよ。」と、俺も普通の返事をした。
本当は、家に引きこもってテレビばかり見ていることも知っているが、今は仕事中。互いに距離がある事を周りの人間にアピールしておく。


「失礼します。よろしかったら、お召し上がりください。」
杏子ちゃんが、指定通りチーズケーキとコーヒーを運んできた。
「あ、すみません。頂きます。」
そう言って、目の前に出されたチーズケーキを嬉しそうに見ると、俺の顔を覗き込んだ。

「・・・どうぞ、話はゆっくり食べながらでいいですよね?」俺が言う。

「ええ、私の方は急ぎませんので・・・」早速フォークを口に持って行った。

お酒も、カクテルを好んで飲む司は、どちらかと言えば甘党。俺は完全に辛党で、ビールが大好きだし、本当はケーキは好きじゃない。それでも、司のまえではタバコを控えているから、なにか口の中に入れたくなるんだ。

目の前で、幸せそうにケーキを頬張ってる顔は、可愛くもある。つい、じっと見てしまうと、司がこちらに目をやるから視線が絡んでしまった。




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