『曇天の月』 025


 絡まる視線の先にある司の艶やかな瞳は、平常心を保とうとする俺の心を煽った。

唇の端についたチーズケーキをペロリと舐めるとき、わざと俺の目をじっと見るからドキリとする。

- おい、おい・・・誘ってんのか?
なんて、心の中で聞いてみるが、口には出せないから、口パクで〔コラ!〕と伝えておいた。

クスッ、と笑う司の顔が憎たらしくて.........。

「最近の商品の動きはどうですか?結構在庫も溜まってるんじゃないですか?」
平静を装って聞いてみるが、司はコーヒーを口に運ぶと「そうですね。」と言う。

「まあ、どこもそうですが、みんな景気を読みながらの発注で、昔のように大量に在庫を抱えるなんて事が無いですから。」
そう言ってコーヒーを飲み干した。

「企業は、数字しか見ていない所もあって、現場以外の人間が都合のいいように数字を並べる。本当に必要なものが出来てこないで、格安のものに目が行ってしまうんです。残念ながら、営業の力不足でもあるんですけどね。」

「いや、営業さんは頑張っておられるでしょう?!新しいものにも目を向けているし・・・。」

「そうなんですけどね、ま、でも、決定権のある人たちが、ものを知らなさすぎるって事もありますよ。散々説明して、”で、それで利益は出るの?”って聞かれておしまいです。」

「ああ、・・・・・」

何とも先の無い話。
こんな事を何年も続けているんだ。相当の数の会社がふるいにかけられて、網の目からどんどんこぼれて生き残りをかけている。
うちの工場も、網の目から零れ落ちたクチ。いや、まだかろうじて引っかかっているのか?

「今日は、例のお話を少し具体的に、と思いまして・・・」
そういうと、ケーキの皿とコーヒーカップを脇によけて、鞄から資料を取り出した。

「杏子ちゃん、お皿下げて!」と言うと、テーブルの上を空け資料を並べる。


”第1案” と記された1センチほどの厚みのある資料は存在感があって、内心、これに目を通すのか・・・と思ったらゲンナリした。







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