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泪は甘い蜜の味 71


 ドアの隙間に視線をやりながら、林くんは実家の猫の話を聞かせてくれた。
何処でも飛び乗ってしまう元気な猫は、しばしば家の中でも行方不明になるらしく、箪笥の裏側に落ちてしまい探すのに苦労したとか。自分で扉を開けて出てしまう事もあるとか。

 俺はコタロと過ごしてきたが、それほど接点が多いわけではなかったから、コタロはおとなしい猫なのだと思っていたし、本来そういうものなんだと思っていた。オモチャで遊んでやっても、暫くするとプイっと向こうへ行ってしまう。猫とは気まぐれで素っ気ない動物なんだと思った。

「林くんは優しいから動物に好かれそうだよね。」

 俺がそう言って横に座る林くんを見ると、カレはクスッと笑顔を向ける。

「僕は優しくなんてないですよ。まあ、動物は好きですけど。こちらの好意は通じると思っています。人間と違って駆け引きがない分自然体でいられますからね。」

「そう?......林くんが優しくないなら誰が優しいっていうんだよ。こんな風に猫探しに付き合ってくれる人なんて、なかなかいないよ。」

 少しバツが悪いが、本当にそう思った。林くんの優しさに俺はしっかり癒されているし、コタロが戻って来てくれると信じる事が出来るのも林くんのおかげだ。

「明石さんは、..........、お仕事ですもんね。今夜は此処に戻って来られるんですか?なんか一緒に住むとか.....。」

「え?........あぁ、うん、そう、..........。勝手に決めちゃって、そんな事になっちゃった。でも、まあ、どうだかな~。アイツよく分からない性格で.......。」

 なんとも説明が出来ずに、お茶を濁す言葉しか出て来ない。

「野々宮さんの部屋って、そう云えば女性の匂いがないですね。」

「は?」

 急にそんな事を云われて目を丸くしてしまった。話しの流れでそんな事が気になった?確かに女性を迎える部屋ではないが.....。

「友人や先輩の部屋に遊びに行くと、何処かしらに女性が残していった物とかあるし、例えばコップや湯呑みや茶碗とか、歯ブラシを置いてある人もいるし。野々宮さんの部屋にはそういう匂わせるモノが無いです。」

「あ、はは、.........俺はモテないから。彼女が居るなんて話してないよね。」

「ええ、.......実は派遣の中島さんと不思議だなって話をした事があるんです。彼女、野々宮さんの事を王子さまとか言ってましたよ。」

 真面目な顔をして林くんが云うものだから、俺は赤面してしまう。

「そういう事、.........マジで恥ずかしいよ。」

 コタロの帰りを待つ俺たちは、そんな話をして時間の経つのを忘れていた。時折ドアの隙間に目をやるが、話しが途切れると少しだけ現実に戻り不安になる。

「バカな事云ってないで、俺はもう一度外を探しに行ってみるよ。林くんは此処で待っててくれる?」

 腰を上げて林くんを見る。すると、カレは同じように立ち上がり俺の肩に手を掛けた。



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