『曇天の月』 034


 昨夜は、司の部屋へ入るなり、速攻で襲ってしまった俺。

あんなのは、何年振りだろう?身体に灯が点いて、勢いで何度も求めた。
おかげで、今朝は体中が痛い。もう若くはないのかなぁ・・・・・




「若社長、津田先生からお電話です!」
事務所に杏子ちゃんの声が響き渡ると、他の社員が俺の顔を見る。
津田先生が弁護士だと知っているから、みんなそれとなく話の内容を聞いている。俺も意識しながら、出来るだけ詳しい内容が分からない様に話す。余計な心配は避けたいからな。

「・・・わかりました。では3時に伺いますので。・・・はい、失礼します。」と言って電話を置く。

「津田先生の所に行かれるんですか?」
真っ先に杏子ちゃんが聞くが、他の社員も何か言われるのかと、こちらを見た。

「ああ、打ち合わせ。」それだけ言った俺に、杏子ちゃんが傍に近寄ってくる。

「・・・何?」と聞くと、「あの、素敵な人いますかねぇ?!アルバイトくんらしいんですよね!」
小声で言うと、ちょっとだけ頬を染める。

- 残念だったなぁ・・・・ロクイチくんはカレシ持ちだよ!!せっかく念入りに化粧したのになぁ・・・

心の中で、慰めの言葉を送った俺。
あんなイケメン、この辺りじゃお目にかかれないもんな。ましてや仕事関係で来るのは、中年太りのおっさんばっかりだ。
若い事務員の娘には刺激が足りないんだよ。
あっ、そう言えば司がいたな。・・・・・けど、俺の カレシ だしな!

- ごめんな 杏子ちゃん。

またもや、心の中で手を合わせる。

「5時までに戻れなかったら、事務所閉めてくれていいからさ。俺、鍵開けて入るから。」

「はい、分かりました。・・・バイトくんによろしく言っといてくださいよ?!」
抜け目なく俺に言うと、クスッと笑って席についた。

ノーマルな異性への反応を目の当たりにすると、つくづく自分の背負ったものが異質だと感じる。
ザンネンなのは、俺の方かもな・・・・・


津田弁護士の事務所に行く前に、一応工場を覗く。
24時間絶え間なく動き続ける織機。
これだけ、賑やかに動いているってのに、なかなか利益が上がらないのは、使う側の問題だな。
機械が高いとか、部品代がかかるとか、そんなのは最初から分かっていることだ。
最初に、すべてのリスクを見込んだ単価を付けられない俺たちが悪かった。

昔ながらの方法で、家族経営とは違うんだ。抱えるものがある。
みんな家族の為に必死で働いているし、何円、何十銭って単価で飯食ってるんだもんな・・・
”何十銭”なんて、そんな通貨、見た事ないし!いつの時代の取引だよ?!

車に乗り込んで、今更のようにぼやきつつ、俺は津田弁護士の事務所に着いた。

「こんにちはー。」

「はい、いらっしゃい。」
今日は、直接先生が出てきた。ロクイチくんは学校か?

「どうもすみません、急に来ていただいて。」先生が困った顔で相談室のドアを開けてくれた。

「あ、・・・・」
言葉を飲み込んだのは、そこにいたのが司だったから。

「こんにちは。」
「こ、んにちは。」
ぎこちない声で挨拶をした俺だったが、今朝別れたときには、この事を何も聞いていなかった。

ゆっくり、先生が指し示す場所へと腰を降ろすと、俺は司の顔を見た。
俺が乾かしてやった髪の毛は、きれいにワックスで整えられている。

司は、テーブルの上の資料に視線を注いでからチラッとこちらを見たが、またすぐ資料に戻る。

なぜだか分からないが、おーはらの事を話すときよりも、俺はビビっていた。
何の根拠もないけど、司は俺に何か隠し事をしている。直感でそう感じた。

司が、初めて見せる冷ややかな顔。
この7年、こんな顔は見たことが無かった俺は、昨夜の事が完全に吹っ飛ぶ。
それ程までに、纏う空気が重かった。











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