『曇天の月』 045


 時計を見ると、まだ夜の8時。
おーはらは店が休みなんだろう、こんな時間にバーなんかに行くって、俺の様に物思いにふけりたいのか、それとも女の子と楽しみたいのか・・・・まあ、おーはらは無理か。

地下に降りて行く階段で、なんとなく違和感を覚えるが、そのまま赤い塗りの扉の前に立つ。

”アレキサンダー” 

真っ赤なドアが淫靡な雰囲気を醸し出しているが、一応普通のバーらしく、開けた扉の向こうには時間が早いせいか、客がまばらにいる程度だった。
そんな奥の方で、一塊になっている人たちが・・・

「あ、リョウくん!!こっち、こっち!」

・・・リョウくん、って・・・・俺の方が年上・・・・・
まあ、それは置いといて、見ると隅のほうで小さく手を振るおーはらの顔が、安堵の表情になっている。
そんなに帰りたかったのか?と思って、おーはらの横にいる例の”あの人”に目が行く。

「迎えに来たよ。王子様。」
俺はバカみたいな言葉を投げかけた。
もちろんふざけて言ったんだけど、隣にいる”あの人”の反応も見たかったってのが半分。

「も、う・・・・やぁだ!王子とか、ないない。」
まんざらでもない顔で、俺の方に来ようと椅子から降りた。
と、その時、おーはらの腕を”あの人”が掴んで、おーはらは立ち上がれない。

「ちょ、・・・・」隣を睨むとおーはらは言ったが、全く気にするふうでもなく、逆に俺の顔を見て口元を上げた。

「せっかく来たんだ。こっちで少し付き合ってくださいよ。」
そういうと、俺を手招きする。

- ここは、素直に従いますか・・・

俺は軽く会釈をすると、その塊の方へ足を運んだ。

「ジュン、こちらがお前のカレシか?」
癖のある髪を束ねた、ちょっと変わった感じの風貌は、内に秘めた怖さを隠しているが、目つきでヤバそう、と分かる。
その人は、おーはらに言うと片方の眉を上げた。

- ジュン、っていうのか・・・下の名前

今更ながらに、おーはらの名前を知った俺。
「ジュン、時間いいのか?」
一応確認するつもりで、初めて下の名前を呼んだ俺は、少し緊張していた。

「・・・まあ、少しだけ、なら。」
おーはらも、名前を呼ばれて今頃照れる。
こんな関係で、よく付き合っているふりをしようなんて、承諾したよな・・・・と、反省するが仕方がない。

「はじめまして、私、小金井と申します。一応、この店のオーナーですので、よかったらまた使ってやってください。」
案外普通の営業スマイルで俺に話しかけてきた。

- 小金井さんっていうんだな・・・・歳は、40手前か?

そんなことを思いつつ、俺も挨拶をする。
「はじめまして、真柴と言います。こんないい店が近くにあるなんて知りませんでしたよ。」
半分お世辞だが、半分は本当にそう思った。

赤いドアには引いたが、中は落ち着いた木彫のカウンター席と高そうな酒が置かれていて、いかがわしさは無かった。

「こんばんわー、仲良くしてくださーい。」
口々に言うのは、小金井さんて人の取り巻きか?全員おとこ。

俺がおーはらを「王子」と呼んでも引かなかったって事は、こいつらもお仲間か・・・・・
そう言えば、どこにも女の姿は無かった。

「ここって・・・・・・」こもる様に言うと、
「バーです。男目当ての、ね?」と、肩をあげて言った。
「・・・ああ・・・・そうなんですね?!」
そう聞くと、あのドアの色合いがしっくりくるような。

小金井さんの隣で酒を頂きながら、俺は店の内装を褒めたりして時間を過ごす。
そうしながら、この人の人間性を図ろうとしていた。




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