『曇天の月』 049


 おーはらの所から戻り、一応着替えだけはして会社に行った。

「若社長、昨日戻られなかったから心配しちゃいましたよ。社長もすぐに帰られるし・・・」
杏子ちゃんが俺の顔を見るなり言う。

「ああ、ごめん。ちゃんと決まったら話すけど、社員さんは心配しなくていいからさ。職を失うことにはならないから。」

「ええっ、ホントですか?良かった~、私クビになるかと思ってたんで。」
そう言って、くるりと向きを変えると掃除の続きをしに行った。

言ってはみたけど本当の所は分からない。
分かっていることは、これからは豊臣と津田弁護士によってうちの会社の命運が決まるって事だけ。
どちらにしても、俺の出る幕は無い。新しい会社に移れば、表面上は全くの別会社の社員。会社の経営に携わる事があるかどうかわからない。


今日は一日中工場で仕事をしていた。
事務所にいるのは、気が滅入る。新しい船の準備ができ次第、乗り移る用意をしなくてはいけないが、俺はこの機械の音が好きで、規則的なリズムは、時折眠気も誘う。昨日の疲れもあってか、俺は床に置かれた鉄のパイプに足を取られると、きれいに転がった。思い切り膝を打ち付けると、その場にうずくまり打った所を押さえる。

「大丈夫ですか?」
声を掛けられるが、「大丈夫!」と言って立ち上がる。

- いけねぇ~、ぼんやりしてると大けがしちゃうな。

そう言い聞かせて、床の物を片付ける。
ここへきて労災とか嫌だからな・・・・


そんな一日をなんとか過ごし、帰りに司の顔が見たくなった。
ここんところ、仕事の話しかしていない。
アイツも営業だから、県外へ行くことも多くて、会えないときはホント、ひと月とかざらだった。
せめて、昔頭に描いたように、同じ家で暮らせたら、と思う。
・・・かたくなに拒否されたんだけどさ!





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