『曇天の月』 050


 司への思いを馳せつつ、俺は今までの仕事のファイルを整理していた。
元々あった仕事以外にも、新たな規格を受けて試行錯誤しながら、新商品の開発もしてきた。

そういったノウハウがあるからこそ、ここは小さいながらも生き残ってきたんだ。でなきゃとっくに潰れている。

それから・・・・悔しいけど、親父の営業力もあったのかもな。
今の俺には、あんなに取引先をもてなす事なんてできないよ。金の使い方もそうだけど、やっぱり人情ってやつかな・・・

古い箱の中身を出して、ひとつづつ手に取るが、目に入ってきたのは、司が豊臣に入って初めて持ってきた新商品の依頼書。

海外で使われている商品サンプルを独自のものに置き換えて作れないかと言われた。
織物は衣料品だけじゃない。建設用にも農業用にも工業用にも使われている。
災害のあった時、真っ先に使われるブルーシートだって織物を加工して出来ているんだから。
そんな商品を一から考えるのも、結構楽しいものだった。

一人感慨深く資料室にこもっていれば、終了のチャイムが鳴る。
- ああ、もう5時か・・・
資料室を閉めて廊下に出ると、早速帰り仕度をした事務員の娘たちとすれ違う。

「お疲れ様です。お先に失礼します。」

「あ、お疲れ様。」

口々にそう言って、事務所の人間が帰宅したあと、俺は一人残って発注の確認やら在庫の確認をした。

ガランとした事務所にいると、この先の心配が頭をよぎる。工場勤務の社員を入れて20数名。
工場は動かすために今の人材を確保しなければいけない。けど、事務所は・・・
俺の立場も微妙だな・・・

立ち上がって休憩室へ行くと、タバコを一服口にした。
ふぅーっ・・・・
ため息と一緒に煙を吐き出す。

窓の外に目をやれば、今夜も曇り空。きっとまた、月は隠れたままだな。







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