『曇天の月』 052



 アパートに着いた俺は、部屋の隅に買ってきた荷物を置いた。
それから、冷蔵庫の中のビールを6本取り出してビニールの袋に入れると、入口で待っている司に手渡す。

「なに?! お前が持って行けよ。」
司は俺の手を押し戻すとそう言ったが、その口は少し尖り気味で、不機嫌そうだった。

「俺、行かない方がいいんじゃないのか?・・・迷惑なんだろ?!」

「・・・別に、迷惑じゃないさ。先輩が誘ったんだし、酒を飲むぐらいはいいだろ!」

俺と司の間に流れる空気が、少しだけ重たい。


「ま、せっかくのお誘いだし、少し付き合ったら適当に帰るからさ。・・・タクシーで行こうか。」

「ああ、そうだな。代行呼ぶのも面倒だ。」
司はそういうと、タクシー会社に電話を入れてここの住所を告げ、俺は酒の入った袋と財布だけを持つと、通りに出て二人でタクシーが来るのを待った。

まだ日が暮れるには時間もあって、外でバーベキューをするにはちょうどいいかもな、と思う。
学生のうちは仲間内でそういうのをやったが、社会人になってからは、もっぱら夜の飲み屋でしか動いていない。

家族がいると生活パターンも違うのかな、と思い、なんとなく休日の家族の過ごし方を想像する。
とはいっても、俺は結婚して子供を作るなんて出来ないし、あくまでも家族というものを想像するしかなかったが。
川とか山へキャンプに行ったりして・・・・ちょっと楽しそうだな、と思った。

ぼんやりしていると、目の前でタクシーが止まったから名前を告げて乗り込む。

「篠ケ瀬の交差点を右へ行ってください。」と、司が運転手に告げると車はゆっくり走り出した。


- へえ、篠ケ瀬って、一応高級住宅地じゃん。

あの先輩の顔を思い浮かべると、ちょっと負けた気がして複雑な心境になる。
何を勝ち負けの対象にしているんだと思われるだろうけど、男にとって住居をどの辺に構えるかによっては、雲泥の差だ。
奥さんになる候補もグッと違ってくるんだろうし。

「そこのポストの先を左に。」
司の声で我に返った俺は、袋を握り締めると降りる準備をした。




- - - 
目の前に見える3階建ての一軒家。
ぅわぉ~っと、一人肩をあげておどけてしまう。

歳も近いっていうのに、こんな家を買えるなんて・・・・
会社での地位もそれなりにあるって事だよな、と思った。俺たちとは少しレベルが違うや・・・・

「こっち、裏の方から回ろう。」そういうと、司は俺の腕を掴んで引き寄せる。
引かれるまま後を付いて行けば、庭に生えた一面のグリーンの芝が見事だった。
奥さんが手入れをしているんだろう、可愛い花が植えられていて、いかにも新婚の幸せな家庭って感じだ。

「こんにちは。お邪魔します。」
二人でそう言って声を掛けると、縁側から中を覗いた。

「あ~いらっしゃい。すぐコレ用意するから・・・」
と言って、さっきホームセンターで買ってきた鉄板を温めだす。
その様子をじっと見る俺たちには、やはり言葉が無かった。





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