『曇天の月』 054


 西沢家の前で、ゆっくりとタクシーが止まった。

俺は、司の家から回ろうと思って先に車に乗り込むと、少し奥へと詰めて座った。
後から乗り込んだ司が、ドアが閉まるなり運転手に俺のアパートの住所を告げるから驚く。

「え、お前の家の方が先だろ?俺んち遠回りになるぞ。」というが、「いいんだ。」と言うだけ。

そのまま、外の景色に目をやっていて、こちらを見ようとはしない。
なんだか怒っているような気もするが、何も変な話はしていないんだ。俺の思い過ごしだろうと思って外を眺めた。


アパートの前に着くと、司が降りてから俺が降りる事になる。俺は財布からタクシー代を渡そうとポケットを探り、お札を渡した。
すると、司はそれを運転手に渡し、「ここでいいですから。」といった。

「え、」と言う間もなく、俺の腕を引っ張ると、どんどん歩き出す。
そして俺のポケットからカギを取り出すと勝手に開けて入って行った。

「ちょ、っと・・・なんだよ。お前帰るんじゃないの?」
俺は別に困るわけじゃないけど、司の態度が変に感じてそう言った。

冷蔵庫から冷たいお茶を出して、コップに注げば一気に飲み干す司は、俺の顔を見ると眉間にシワを寄せる。


「・・・何!?何か気に障るような事言ったか?」段々俺も不愉快になってきて言うと
「涼介、女の子と付き合いたいの?」と言われて驚いた。
そんな事あり得ないし、司も同じゲイなのに、と思って.....。

「バカか!あるわけないだろ。どこからそんな発想になるんだよ。」
俺は半分呆れて言ったが、司は真剣な顔。

「なんか奥さんの事聞いたり、羨ましそうに言ってただろ!西沢さんに女の子紹介してもらいたそうだったじゃないか。」
「そ、それは・・・・」
完全に勘違いというか・・・・

「奥さんの話すると、嬉しそうだったからだよ!そういうのあるだろ。気を使ったんだよ、俺だって・・・」
司の横に行くと、手にしたコップを取り上げて俺もお茶を入れた。それから飲みほすと、司の腰を引き寄せる。

「あ、・・・」
司が洩らした声を耳にして、ぐっと近づければ両腕で躰を閉じ込めた。

互いの目と目が合って、少し見つめ合うが、瞳の奥に曇りが無いか確かめる。
それからゆっくりと唇を近づければ、司が目を閉じた。
俺はそんな司の瞼を見ながら、少しだけ興奮する。長い睫毛が微妙に揺れて、時折瞳の色が覗くと、じっと見つめた。

「見んな。」と、唇を離すというから可愛くなる。
「俺の趣味。司がどんな顔してキスするか見たいの。」と言ってやった。

「・・・バカ、変態!」というが、また俺の唇に噛みつくように重ねてくる。

しばらくの間、俺たちは互いの唇の感触を楽しんでいた。




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