『曇天の月』 058


 
 終礼のチャイムを聞くと、実家へ飛んで帰った俺は、ギリギリと爪を噛みながら、コタツの前であぐらをかく親父を睨みつける。

「怖ぇ顔すんなって、涼介。・・・聞いた通りだよ。」
あっさりと言う親父は、俺の顔の前に新聞を掲げて自分の顔を隠した。

「ふざけんなよ!社員も現状のままって話じゃなかったのかよ。そりゃあ豊臣の資本を100パーセント受けて文句は言えないし、俺の会社でもないけどさぁ。」
バサリと新聞を横へやると、俺は身を乗り出した。

「そんな事言ってもなあ、あっちの人員を入れて賄うって言ってんだ。事務仕事なんて経験があれば出来るだろう。」

「はぁ??」
カチン、ときた。
確かに、今はパソコンがいじれたら簡単な伝票入力なんかすぐできるようになる。

「言っとくけどなぁ、あの子たちは取引先の窓口と関係を築いてんだよ。いろいろ無理を言われても、ちゃんと対処して関係がまずくならない様にフォローしてんだ。男性社員よりずっと頑張ってるよ。」
俺は、常日頃からそういう姿を見てきた。若い女子社員ってだけじゃない。
それを、掃いて捨てるほどの価値の様に言うから腹が立った。

「俺たちは、ざっくり上物の形は整えるけど、実際に細々と発注の手配やら連絡を取り合ってくれるのはあの娘たちなんだ。それを同じ事務仕事が出来るからって、なんのつながりも無い人に任せられるか。申し送りならメールで十分なんだよ。」

俺が興奮気味に言うから、親父の身体が後ろに下がる。
「まあ、そうかもしれんが、・・・仕方がないだろう。会社が変わっちまうんだからな・・・」
そう言って、残りの酒に口を付けた。




- - - 
親父に言ったところで、何にもならない事は分かっていた。それでも、会社がこんな事になってしまったせいで、あの二人がクビを切られることがやるせなかった。

彼女たちならまだ若いし、他に努める事も出来るだろう。それでも、自分から辞めたいと言わない限りはここで働いてほしい。
たった二人の女子社員も守れないで、俺は・・・・・・・

ひとりベッドに寝転んで天井を見ていると、玄関のチャイムが”ピンポーン”と鳴った。

顔だけそっちの方に向けるが、身体が動かない。
ピンポーン、と鳴り続けるチャイムを聞きながら、心は何処かへ置いて来たみたいで、俺はただぼーっと玄関の方を見つめていた。

「涼介、いるんだろ?・・・おい。」
声の主は司だった。

一応は、昼間の電話を気にしてここへ来たって訳だ。弁解でもしに来たのかな・・・

「なんか用か!?・・・」と俺が言うと、「・・・・・・」声が聞こえない。

こんな夜に、大きな声で言い合ってるのは変だろうな。男同士、ケンカにでもなっていると思われるか?
それでも、俺は立ち上がってドアを開ける気にもならなくて、司の声が聞こえなくなってもそのままにしていた。







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