『曇天の月』 059


 ベッドの上で微かに振動が伝わるが、さっき投げた携帯が布団の上で震えていた。

「・・・はい。」表示の名前を見ながら不愛想に答える。

『涼介、ここ開けろよ。こんな夜に近所迷惑だし、部屋に入れてくれよ。』

静かに電話の向こうでしゃべる司だったが、俺は本当に身体の力が抜けてしまっていた。片足を床に降ろすのも怠く感じる程。


「・・・どうぞ」と言ってドアを開けてやるが、司の顔は見なかった。
足元に視線を落としたまま。

「具合悪いのか?熱でも出たか。」
そう言うと額に手をやって聞いてくるが、俺は顔を逸らしてその手を避けた。

自分でも分からない。司を避けるなんて、今まで一度もなかった事だ。
でも、今は目も合わせたくない心境で・・・・

「怒ってるのか。人事が気に食わないから・・・・」と言いながらベッドに腰を掛けると、突っ立ったままの俺の手を引いた。

「ガキみたいに拗ねてるって思ってんだろ?俺は納得できない。」

「わかってるよ。涼介が社員をどんな風に思ってるかは・・・。けど、これはビジネスだ。涼介は経営者じゃない。」
俺の手を握りながら子供に諭すような言い方。

「まただ・・・、ビジネス、ビジネス・・・司はやっぱり商社組だな。俺みたいな製造の人間とは考え方が違うんだ。何でも売り上げとか利益とかそういう数字でしか物を見ない。」
司の指を振り切ると、俺は向かいの椅子に座る。

「・・・涼介・・・・。お前はやっぱり人がいいな。親父さんの事何だかんだ言ってたけど、自分だって義理人情の世界に浸ってるんじゃないか。人の繋がりを大事にしてるんだ。けど、仕事は、会社を続けていくには、切らなきゃならない時もあるんだよ。」
ベッドから立ち上がると、俺の椅子の横に立った。

「人件費を抑えて経費を浮かすぐらいは分かるさ。俺だって銀行へ行って話もしてるし。だけど、同じ仕事をするんなら、あの子たちは会社には必要な人材なんだよ。新しいそっちの事務の娘に教えるったって、時間がかかるだろ?」
俺も司に向き合って立ち上がると言った。

互いに見合ったまま、目を逸らせないでいると、
「ふ、・・・三代目だな・・・・。」
司が笑みを浮かべて俺に言う。

「は?・・・何が三代目だ。」

「周りに持ち上げられて、大きな気になって、出来もしない事を約束でもしたか?!自分が頼めばなんとでもなると思ったか。」
司が眉をあげ乍ら、俺を見て言うから腹が立つ。

「分かったよ。そんなに経費を減らしたいんなら・・・・・俺がやめるわ。これでもいっぱしの月給はもらっていたんだ。あの子ら二人分には届かないかもだけどな、少しは資金繰りも楽になるだろう。」

「涼介!!何言ってんだ・・・・お前が辞めてどうするんだよ。」
司の腕が俺の胸ぐらを掴むが、俺は横を向いた。

「帰れ、これ以上話しても殴り合いのケンカになるだけだ。お前の顔、傷つける訳には行かないからな。」

「・・・涼介。」
掴んだ手がギリギリときしむ様だったが、横を向いたままの俺は司の目を見なかった。

「甘いな。そんなだから会社もつぶれるんだよ。」と、司の言葉を耳にした俺は「なんだとツ!!!」と、司に掴みかかってしまう。


見合った瞳には、これまで感じた事のない憤りが宿っていた。





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