『曇天の月』 062




 気づけば債権者説明会から半年以上の歳月が流れ、俺の分からない所でどんどん違う世界が広がっていった。

津田弁護士の力添えで新しい会社もすぐに設立され、社名を”TM工業株式会社”として再出発。
俺と司は、共に営業として同じ社内で働く事になるが、ひとつだけ気になることがあった。

杏子ちゃんのクビの一件で、俺と司の間には微妙な空気が流れている。
距離をおこうと言い出したのは俺。
それに対して司の返事はなかったが、俺たちはあれから一度も寝ていない。

仕事の繋がりで飲み会なんかには同行するが、帰りは俺が先に帰ったり、司が途中で抜けたり。
わざとそうしている訳じゃ無いけど、いつの間にか二人で同じ空間にいるのを避けるようになっていた。

「真柴さん、来週の小山商事、倉田さんと代わってもらっていいですか?」

事務所で発注書の確認をしていると、斜め後ろから司に言われ振り返った。

「え、・・・あ、はい。いいですよ、担当の永山さんは倉田さんとも面識ありますから。」
そう言って司の方を向きながら話すが、正直こんなに長い間他人行儀な敬語で話すことが無いから疲れる。

こんなに近い距離で、毎日顔を合わせているのに・・・・

俺が言ったとおり、距離をおいた関係が続いている。なのに、スッキリしない感情が俺の中でどんどん蓄積されていって.....。


「悪いけど、この資料を添付ファイルにして小山商事の購買課へ送ってもらえます?」
「はい、分かりました。」

長い髪をひとつに束ねて、黒縁の眼鏡をかけた顔がにっこりと微笑むと、俺の手から資料を受け取った。

彼女は豊臣から移動になった事務の女性で、杏子ちゃんたちの後がま・・・と言ったら失礼になるかな。歳は俺より一つ上。
独身で実家暮らしだとか。名前は立花 沙織さんと言った。

スタイルはそこそこで、多分眼鏡を掛けていなければ美人の部類なんだろう。残念ながら俺は女子には興味が無いから、ニッコリ微笑まれても受け止めようがない。

工場の人たちには受けが良くて、大人の女性の匂いがするとか言われている。
杏子ちゃんたちは、若すぎて子供の様な感覚なんだろうな。俺にはどちらでも良かったが、彼女もここで頑張ろうとしているのが分かるから、みんなと親しくなれることはいいことだと思っている。

ただ、司に対する彼女の態度が気になった。

「ツカちゃん、これ食べます?」
そう言ってお昼時にはサンドイッチやらおにぎりを司に渡していた。

- ツカちゃん・・・・・・・・・・・・・・・・・・ツカ、・・・・・・・

同期入社だと言っていたけど、司の事を「ツカちゃん」と呼ぶのはちょっと・・・・

司も俺と同じゲイで、女性には全く興味が持てないが、営業畑のせいか、ちゃんと女の子の対処の仕方を知っている。
付かず離れず、二人はいい関係を築いているようだった。

同じ社内で、二人の様子を目にすると、なんとも言えない気持ちになる。

仕事の関係だ。それは勿論わかっている。でも・・・・・・・・・






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