『曇天の月』 066


 車を運転しながらも、時折口元に手をやれば、唇に血が乾いて付いたのか、ガサガサした感触が気持ち悪くて・・・。
ポケットからハンカチを取り出して擦ってみるが、ズキッと痛んで、また腹が立つ。

いや、悪いのは俺なんだけど...........。

自分でも、どうしてあんな事をしたのか分からない。
欲求不満だったのか.....

それにしても、あそこまで避けなくたっていいじゃないか。
司は、俺と離れてもいいと思ってるんだ。きっと、俺には愛想を付かしたんだろうな。

そんなことを考えながら、俺はなぜか実家に向かった。
全ての大元は、俺の親父にある。そんな風に誰かに矛先を持って行かないと、自分が情けなくて仕方がない。
親父の顔を見たら余計にムカつくかもしれないが、この際ケンカになってもいいやと思った。

ガラララツ・・・・

いつものことながら、玄関の戸は鍵が開いたまま。

「おいおい不用心だなぁ・・・この家は、なんにも取るものが無いからって・・・」
言いながら居間の方に歩いて行く。

「おう、涼介。・・・あれ、なんかお前変な顔だなぁ。」

「は?・・・どこが、だよ!!・・・あれ、映見は?」

いつもはいるはずの映見の姿が見当たらなくて、気になった。

「映見は最近彼氏が出来たらしくてよ、結構遅くに帰って来るんだ。俺の飯なんか忘れられてる。」
親父がそう言って目の前のコップ酒に手を伸ばした。

「じゃあ、俺がなんか作ってやるよ。チャーハンでいいだろ。」
「おぅ、頼むよ。」

映見にもやっと男が出来たのかと、ちょっと複雑ではあるけど、まあ嬉しい事だなと思いながら材料を取り出した。
ネギを刻み、チャーシューと余ったちくわを刻んで炒めたらご飯を入れ、最後に溶き卵を回し入れてサッとかき混ぜるように炒める。
最後にめんつゆを少々。
大抵の料理の味は、めんつゆでどうにかなると思っている俺。自分で作る時は何かと重宝している。

「はい、出来たぞ。」そう言って親父の前に出せば嬉しそうに頬張った。

「お前、料理も出来るんならカミさんもらわなくてもいいな。・・・うめぇよ、コレ。」
そういう親父を見ながら、少し心が痛む。

- 悪いな、俺、ゲイなんだよ。だから、カミさんとか子供とかは、親父に見せてやれない。

ひとり笑顔の裏で呟くと、さっきまでのいらだちが消えてしまったようで。
「俺、独身で通すよ。悪いけど、結婚には向いてない。」
そう言って親父の顔を見た。

「そうか・・・・・まあ、映見に孫の顔拝ませてもらえたらいいかな。それも分からないかな・・・・あいつはキツイとこあるからなぁ・・・」
しみじみと親父が言うから可笑しくなる。
誰のせいであんなにしっかり者の女になったんだか・・・。

「なんか用事あったんじゃないのか?」と聞かれ、ハッと思ったが、別にどうでもよくなった。
親父に八つ当たりしても、俺と司の事はどうにもならない。
それに、アイツが俺を避けるのは、気持ちが俺に向いていないという事だろう。
それが分って良かったのかもしれない。
同じ職場で顔を合わすのは気まずいけど、仕事と割り切らないとな・・・・。





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