『曇天の月』 068


 「これ・・・・。」

司の前に見積書を置くと、指をトン、と鳴らして言った。

「・・・なんです?」
静かに言うと、訝し気な目で俺を見る。

「昨日、この見積もりもらって気が付きませんでした?ここの単価、自分が報告していたものと開きがあるでしょ?!」
そう言うと、司の横に立って数字の所を指で示した。


「・・・ぁ・・・・」

「この原料は、真柴の時も使っていたんです。これは毎月必ず2トンは製造している。今の時期、原油も上がっていないのにこんなに単価が上がるわけないんですよ。」
俺が指でトントン叩くが、それが気に障ったのか手で止められた。


「分かりました。・・・確かに、コレは吹っ掛けられてますね。自分には分からないと思ったのかな。」

「どうして俺に聞かなかった?ちょっと電話入れてくれたら・・・」
口元を押さえて、周りには聞こえない様に言ったが、司はすぐに受話器を取った。

「つ、・・・」
俺の言葉も聞かないまま、昨日訪れた原料メーカーに電話を入れている。

「もしもし、TM工業株式会社の矢野と申します。お世話になっております。・・・・」

俺は隣に突っ立っているだけで、司の様子を眺めているしかない。
自分で電話を入れるって事は、俺の助けは必要ないって事だな・・・

後の処理は司に任せて、俺はまた倉田さんの元へと戻って行った。
取り合えず、単価は交渉してもらうとして、俺と倉田さんは次の話を進める。


- 可愛くねぇな。
いろいろ教えて下さい、なんて言っておきながら、全く俺に頼らないじゃん。・・・ったく!

ひとりヤキモキしながら休憩室に向かうと、タバコを取り出した。
缶コーヒーを片手に、タバコに火をつけると窓際の所に立ち、コーヒーをおいて、少し開けた窓から煙を吐き出した。

「今日もそのスタイルですね。」

声の方を見ると、立花さんが微笑んで俺を見ていた。

「あ、・・・。」俺はタバコを灰皿に置く。


「ここは禁煙室じゃないんですから、外に煙を吐かなくてもいいのに・・・。周りに気を使われるんですね。」
そう言いながら自販機でコーヒーを買った。

「いや、別に気を使ってる訳じゃ無くて・・・・。癖かな?」

「そうなんですか。」

立花さんが俺の横に立つと、外の景色を見ながら言うが、内心ドキッとした。

司がタバコの匂いを嫌がるから、俺はいつも我慢するとか換気扇の下で吸うとかしていた。
そういうのが癖になっているんだ。もう気遣う相手はいないってのに・・・・

「立花さんはタバコ吸う人嫌いですか?」

「え?・・・・・」

聞き方がマズかったのか、立花さんが急に無言になってしまい、俺の背中にも緊張が走る。




ご覧いただき有難うございます
ランキング参加しています。(*^^)v
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント