『曇天の月』 069


 ちょっとした探り合いの様な そんな空気が二人の間に流れる。

「別に、吸っても吸わなくても、どちらでもいいですよ。好きになった人がタバコを好むなら・・・それを受け入れるだけです。」

「ぁあ、・・・そうですか。」

なんとも大人の対応。
というか、そもそも俺自身、何を思ってそんな質問をしたのか。
なんとなく、彼女が司と仲いいので気になったのかな・・・?

「さっき、矢野くんと何かあったんですか?真柴さんと話した後、険しい顔でどこかに電話していましたよ。」

「ああ、それきっと昨日行った原料メーカーにですよ。見積もりの件で、ね。」

「そうなんですか。珍しいですよ、彼があんなに必死な顔するのって。」

俺に指摘されてメーカーへ文句でも言っていたんだろうと思ったが、今まで仕事中の司を見てきた彼女が言うので気になった。

「そんなに珍しい?あの人、結構厳しいので有名じゃないですか。納期とか絶対厳守だし。」
今までにも、何度そのことで機嫌を損なわれて、プライベートな時間が失われた事か。

「う~ん・・・まあ、基本的には厳しいですね、周りにも自分にも。でも、今日のは、ちょっと情けなくなるぐらい必死になってました。」

- そんなに?
ちょっと単価の見直しをしてもらえば済む話だろう。そこまで必死に文句言う事はない。

「こっちに来て新たな発見です。矢野くんて、なんでもそつなくこなして面白くない人種だと思っていたから。私がからかっても普通に答えてくれちゃって、・・・ホントつまらなかった。でも、真柴さんには表向き表情変えないけど、内面から何か出してますよね。」

「えっ!!・・・・そ、んな事は・・・・」
慌ててしまった俺を変に思ったんじゃないのかな、立花さんはコーヒーを飲みながらウフフ、と笑った。



しばらく二人で会話をして、事務所へ戻ろうとしたときに入れ違いで司が休憩をしに来た。

「オツカレ。」
自販機の前ですれ違いざま司に声を掛ける。

「ああ、お疲れ様。」
俺の顔をチラッと見たが、それだけ言うと小銭を入れる。特に電話の件は話してこないから、俺もそのまま立花さんと並んで戻って行った。


昼休みはいつもの様にコンビニの弁当を買いに出たが、せっかく二人で昼飯が食べられる環境になったのに、全く一度も食べていない。必ず誰かを挟んでの食事か、外回りのついでに一人で食べるとか。

司が俺に愛想をつかして離れてしまった今、この先も一緒に飯を食うことはないのかな。
そう思うと、職場なのに涙が出そう。
自分で蒔いた種なのに・・・。



「さて、じゃあさっきの続きはじめましょうか。」
そう言って倉田さんに声を掛ける。

「はい、・・・矢野さん、始めますか?」
倉田さんは司に声を掛けた。
俺が先に会議室へと向かうから、倉田さんは司を待って一緒に歩き出す。


少人数用のテーブルの上に、資料を出して広げると、
「先ほど、原料の単価をメーカーに話して前の通りに戻してもらいました。新規での単価を入れてしまったと、申し訳ないって言ってましたよ。」
司が俺と倉田さんに言う。

「・・・・良かった。すみません、自分が気づかなくて・・・。」
倉田さんが謝るから、俺の目が司へ向いてしまうと、「いえ、自分が真柴さんに聞いていたのに忘れていたんです。倉田さんには急遽変わってもらっただけなんで・・・すみません、自分の落ち度でした。」と言った。

「まあ、変更してくれたんですから、いいじゃないですか。次、進めましょうよ。」
「はい・・・。」

その場の空気が変になるのも嫌だし、俺は新たな規格の話を進めていく。
次第に場も和み、織機の配分とか生産量の細かい数字を出すところまで進めることが出来た。

最終的な利益は仕上がってみないと分からない。
形ある物とは言っても伸びたり縮んだりする製品。
その分のロスは見込んであるが、途中機械のトラブルで製品をダメにする箇所も出る。
そうなると、初めの計算よりロス率が高くなり利益が減ってしまう。


「それにしても、やっぱりやることが早いですね。」と、倉田さんが司に言うのが聞こえる。

「なんですか?」

「いや、一旦上げた見積もりの数字ですし、真柴の時に使っていたって言っても新規の単価を押されたら・・・。すぐに変更はきかないですよ。」
帰り仕度をしながら倉田さんが感心している。

俺は、その言葉を少し離れて聞いていたが、特に二人の会話には参加しなかった。というか、司に何か言うのも気が引けて。

「使えないヤツだと思われるのはシャクですからね。」
「え?・・・自分、そんな事思ったりしませんて。」
慌てて言う倉田さんに

「あ、・・・真柴くんに、ですよ。一応同い年ですし、付き合い長いですしね。少しでも、ここに来て助かるって思ってほしいですから。」
少し頭を掻きながら言っているから、俺の耳も大きくなった。それに聞き間違いかと思った。


そんな風に思っているなんて、俺には一言も言わないで・・・・・。
なんで倉田さんに言ってるんだよ。

でも、聞かなかった事にする。アイツも、直接俺には言いたくなかったんだろうし。






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