『曇天の月』 070


 「お疲れ様でした」

そう言って事務所を後にした俺。
目の端では司の姿を確認するが、特にかける言葉も見つからずそのまま駐車場へと向かった。




「明日は土曜日ですけど、今夜は予定ないんですか?」

車のドアを開けようとして、立花さんから声を掛けられる。

- あれ?朝見た時と服装が変わってるな。

そう思った俺は
「この後デートですか?」
月並みな質問をしてみた。

「・・・まあ、デートと言われれば。でも、相手は矢野くんです。ちょっと相談に乗ってもらおうかと・・・。」

司の名前が出て、俺が封じ込めた感情がじんわりと湧き出てくる。

「つ、・・矢野くんが相談相手ですか。良かったですね、彼しっかりしてるから。・・・じゃあ、お疲れ様でした、失礼します。」
「あ、はい。・・・・お疲れ様でした。」


バタン、、、、

ドアを閉めて、立花さんが行き過ぎるのをサイドミラーで確認した。

- はぁっ・・・・・疲れる。何なんだ、いったい。・・・あの人やけに司と仲いいじゃないか。
そりゃあ同じ会社に居たんだし、二人してこっちに移動になって話もあるだろうよ。
けど、・・・・・・・・・・

ハンドルにかぶさるように伏せれば、ため息ばかりが出て車の中に陰の空気が充満した。



- - - 
しばらくぶりにバーへ向かうと、相変わらず化粧の濃いママの顔を見て落ち着く。

「久しぶりじゃないの~。どこで浮気してたんだか!リョウスケは!!」

「はは、浮気って・・・・・マジで勘弁。そんな気分になれないし。」
カウンターに座るといつもの様に賑やかな声で、俺も少しだけ弱気を見せてしまった。

「なによ~、せっかく新しい道が開けたんじゃないの?仕事は順調なんでしょ?!」
ママは俺の前にグラスを置くと言った。

「今夜はジントニックじゃ足りないなー。ウォッカとか飲んじゃおうかな・・・次、それでよろしく。」
そういうと、ほぼ一気にジントニックを飲み干す。

「ちょ、っと・・!!やぁ~ね、この子は・・・・部活終わりの麦茶みたいに飲まないのよオ。」

空になったグラスを持って行くと、おしぼりをもう一つ俺に差し出した。

「・・・・何?・・・さっきもらったけど。」

「あんた、泣きたいならそれで涙をおふきっ!!酒に逃げるとロクな事ないから。ほぉら~~っ。」
そう言うと、俺の顔をおしぼりでごしごし擦る。

「ちょ。・・・・わかった、酒でごまかさないから、そんなに擦ったら痛ぇわ。顔の皮剥けるし。」

ママからおしぼりを取り上げると、自分でそれを広げた。
顔の上に掛ければ、視界が遮られ自分だけの空間に浸れて気持ちも少しだけ落ち着く。



いらっしゃ~い。の元気な声のあと、「どうしたの?」と、可愛い声が聞こえて、俺は顔に掛けたおしぼりを剥した。

「あ・・・・・おーはら。」

「どうも~。おひさ、だねぇ。元気ないの?」
俺の顔を覗きこむ様にして言うと、ニコリと笑った。

- やっぱりカワイイな~・・・・・

久しぶりの好みの顔を間近に見られて気分も上がる。

「髪の毛随分伸びたねぇ。またカットモデルに来てよ。」
「ああ、ずっと忙しくてな。こんど行く。」

「あ、ジントニックでいい?」とおーはらに聞いて、俺の分と二つ注文する。


渋々顔のママが俺の前にグラスを置いてくれるが、おーはらの顔を見ると
「この子、弱ってんだって!ちょっと慰めてやってよね。」
それだけ言って向こうの客の方へ行ってしまった。

クスクス笑うおーはらは、「可哀そうにねー。」と言って俺の背中を撫でた。

その手の温もりが心地よくて、一気に酒も回り出す。




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