『曇天の月』 076


 その晩は、映見にイタリアンレストランへ連れて行かれ、普段は口にしないような料理を食べながら、周りの客を見ていた。
ほとんどが男女のカップルばかりで、たまに女性同士が何人かグループで来ているようだった。

俺たちも男女のカップルではあるけど、兄妹だ。
普通は、こういう所でデートをするものなんだな。
さすがに男の二人連れは見当たらない。

「なあ、こういう店、よく来るのか?」
向かいでおいしそうに頬張る映見に聞いてみる。

「そうねぇ、たま~に、かな。だって高いじゃない、そんなにしょっちゅうは来られないよ。」

「・・・・だよな~。それでも、デートの定番って感じだな。」

「おにぃは女の子とデートした事なかったっけ?女の子は結構周りに言いたがるのよ。どこどこのイタリアン食べた、とか・・・。もちろん彼氏に連れてってもらったって事を言いたいんだけどね。大変なのよ、女の見栄の張り合いって。」

「へぇ・・・・・・」
俺は感心して頷くしかない。
女の子とデートなんかした事ないし、司とは大抵居酒屋とか飲み屋でご飯を食べることが多かった。
あとは俺の家で食べるか司の家か・・・・。

そう考えると、男同士って肩身が狭いな。こんな所で俺と司が食事をするって想像したら・・・・・ちょっと恥ずかしい。

「ねえねえ・・・・おにぃ。」
呼ばれて映見の方を向くと、何処かへ視線が行っていて、俺もつられてその方向を見てみた。


・・・あ。

店の入り口から入ってきたカップルに目が行くと、見覚えのある二人の姿。

司と一緒に居るのは、あの立花さんだった。
一瞬目を疑った。というか、金曜の夜に二人がどこかで話をしたのは知っているが、今日も一緒って・・・・。

「あれ、司さんでしょ?・・・あの女の人、誰?」
「・・・・あれは、会社の事務の娘。」

「へぇ、・・・・」
映見の声が小さくなる。

俺に気を使ったのか、その後は司たちの事には触れてこなかった。
こういう時、出来た妹で良かったなと思う。
興味深々で色々聞かれたら、余計にたまらない。

あっちは俺たちに気づいていないようだし、食べ終わったらこのままそっと帰ろう。
心なしか食べるスピードをあげて口に運んでいくが、映見はチラチラと視線を送る。

「映見、・・・あんまり見んな。」
そう言って諭すが、やはり気になるようで、しばらくするとまた目が行った。

最後のエスプレッソを飲みほすと、俺は帰る用意をする。
「おにぃ、早いって・・・・お腹苦しいんだから、ゆっくりしてよ。」
映見が不服そうに俺を見るが、なんとなく司たちに気づかれるのが嫌で、つい気がせいてしまう。

「分かったよ、待つから・・・・。」
仕方なく、視線を落とすが、今度は映見がテーブルの上に人差し指でトントンと合図を送ってきた。

何かと思えば、また司たちの方を見ている。
- だから、見んなって・・・・・
と思っていると、人影が。

「こんばんは。久しぶりだね。」
俺の横で司の声がして、向かいの映見に言った。

「こんばんは。お久しぶりです・・・兄がお世話になってます。」
映見がちゃんと挨拶のできる妹で良かったけど、ここで俺の事を出すなよ、と思った。

「・・・いいえ、なんにも・・・。」

ほら、司も微妙な感じになってる。
俺は司の顔を見ずに、その場から逃げたい気持ちになる。
そうしないと、向こうにいる立花さんの事が気になって、二人の関係を聞いてしまいそうだったから。

「あの、俺たちそろそろ帰るから・・・」
目を合わさずにいうと、「ああ、そうか。・・・じゃあ、また。」と、映見に言っているようで。

「また家にも遊びに来てくださいね。」
「ああ、ありがとう。」

映見と司の会話を耳にしながら、俺は伝票を持つとレジの方へ向かった。

司の顔を見る事が出来なかった。
俺の中の邪な感情が何を言わせるか分からない。立花さんとどんな関係なんだ。本当は豊臣にいるころから親しいんじゃなかったのか・・・・・。俺の知らない所で、司は女の子と付き合ってたんじゃないのか。
そんなバカみたいなことまで勘ぐってしまう。
もう、どうだっていいことだ。俺には関係ない。



「おにぃ・・・・・・・・・・・・・。」

映見の声で、ハッと我にかえる。

「あ、ゴメン。」

タクシーの中で黙りこくっているから心配になったのか、映見が俺を見ると眉を下げた。

「おにぃの気持ち、分かるよ?!こういうのって女も男も一緒だね。あの人の事気になってるんでしょ?」
俺の本心をズバリと言われて唖然とした。

「・・・・・お、まえ、ねぇ・・・・・。はぁぁぁ・・・・・・・まあ、そのうち話すよ。今日の所は帰って寝ろ。」

そう言って実家で映見を降ろすと、自分の部屋へと向かった。

タクシーの窓からぼんやり上を見上げると、空気が澄んでいるのか、今夜の月はハッキリと輝いて見えた。

こんな夜にあの二人と会いたくなかったな・・・・・。
そう思いながら、背中をシートに預ければ、俺の目はいつまでも上空の月を追っていた。





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