『曇天の月』 077


 またもや眠れぬ夜を過ごし、明け方ようやく眠りについたかと思えば目覚ましのアラームで起こされる。


- - - 

「おはようございます」

車から降りると立花さんから声を掛けられた。

「おはようございます」

昨夜の事を聞こうか迷った俺に、
「昨日、妹さんと食事だったんですね。」

立花さんの方から言われ、「ええ。なんか、久しぶりに顔見たらねだられて・・・。」と答える。

「兄妹の仲がいいって、矢野くんが羨ましがってました。」

「え?・・・・そうですか。」

司は一人っ子だと言っていたから、前にもそんな事を言われた気がする。

「私、昨日いたんですけど、知ってました?」と聞かれ、ウソも言えないので「ええ。」とだけ答えた。

最近、やけに立花さんとこうして話しながら出社する事多いな、と思いつつも避ける理由もないから二人で歩いていく。


「おはようございます。」
「おはようございます。」

それぞれに事務所の人に挨拶をすると、自分の席についた。

司の席の方に目が行く。

机の上に鞄が置かれていたが、本人の姿は無く、そのまま俺も自分の机の上に書類を出していく。


「おはようございます。先日の新しい製品の事ですけど、今日豊臣の営業が来るそうです。」
俺の横に来て言ったのは倉田さんだった。

「あ、そうなんですか?!・・・でも、それって矢野さんと倉田さんで、・・・」
俺は、この一件から少し外れているような気がして言った。
司が俺の代わりに倉田さんを指名したんだ。

「いやぁ、それがこの前の原料の事でちょっとあって・・・・矢野さんは外れるらしいです。自分と真柴さんで進めてほしいって・・・。」
「え?・・・そんな話、いつあったんですか。俺は聞いてない。」

つい強い口調で言ってしまう。

「この前、単価を戻してもらった日ですよ。あの日の夕方に電話があって、原料メーカーの担当の上司が文句言って来たんです。なんか矢野さんの言い方が気に入らなかったとかで、よそで買ってくれって言ったとか・・・。」

「まさ、か・・・・。ホントですか?」
そんなことは初めて聞いた。あの司が?

「矢野さんが外れるという事で、なんとか原料は入れてもらえる事になったんですよ。聞いてませんか?」
「ええ・・・・全然。・・・まぁ、話をする機会もなかったんで・・・。」

ホントの事だ。俺が避けていたんだ。
昨日も、顔を見ないままだった。
ひょっとして、その事を立花さんに相談していたんだろうか・・・・・・・。


しばらくして、司が戻ってきた。

俺は出来るだけ平常心を保とうと、書類を片手に持って司の元へ行く。

「あの、・・・ちょっと打ち合わせ、いいですか?」
そう言って書類を軽く上にあげてみるが、一度俺の顔を見た司が再び下を向く。

「悪いけど、それは倉田さんと・・・・」
「ちょっとだけって言ってる。矢野さんに確認したい事があるんだ。」
俺は司の肘を掴むと、強引に事務所から連れ出した。

「ちょ、・・・っと。」
慌てるが、掴んだ手を振りほどきはしない。
そのまま奥の会議室へ入ると、俺は鍵を掛けた。

「ちょっと!!なんでカギなんか。」

「誰にも邪魔されたくないからだよ。俺に言う事があるだろ!?」

「・・・・・は、・・・一番言いたくない相手だ。」
司が冷めた顔で言う。

「どういう意味だよ。そんなに俺がキライになったか?呆れて顔も見たくないか。そりゃあ、あんな事しておいて偉そうなことは言えないけど、少しぐらいは力になりたいんだ。」
俺は必死だった。

「メーカーに外されたって?どうして俺に言わなかった。あの単価の事なら、うまく話が出来たはずだ。」

「だから、だよ。・・・・・せっかく涼介抜きでもちゃんと出来る所を見せたかったのに・・・・・。オレにおごりがあった。こんな商談、すぐに済ませて形に出来るって・・・・・。ここでの仕事も大丈夫だって思わせたかったんだ、お前に・・・・。」

「つ、かさ・・・・・・・。」

この間倉田さんに言っていた言葉。
あれは本心だったんだ。俺に使えないヤツと思われたくないって・・・。
そんな事思う訳ないのに・・・・・。





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