『曇天の月』 079


 丁度来た新幹線に飛び乗れば、俺たちは並んで空いている席に座った。

「は、ぁ・・・良かったな、すぐの新幹線があって。これなら昼には余裕で着くよ。」
隣の司に言う。

「・・・も、う・・・こんなに走るの久しぶりだよ。一本遅らせたって良かったのに。」
司が息を整えながら俺を見ると言った。

「ああ、・・・でも早く着く方がいいかと思って。そうすればちゃんと話もできるし、な。」

「・・・涼介・・・。どうして小山商事へ?何をしに行くんだよ。原材料は入れてもらえるんだし、オレが外されたからって、仕事に支障はないじゃないか。」
司は俺の顔を見るが、本当に訳が分からないと言った風だった。

「俺はさ、新しい場所で司と仕事が出来るって事は嬉しいと思ってるんだ。最初はもちろん抵抗もあった。杏子ちゃんたちの件もあって、自分の力のなさを司へ八つ当たりしたんだ・・・。」
「・・・涼介。」

正直、司の事を冷酷な奴だと思った。
何でもビジネスって割り切って、俺との事も切り捨てられるんだと思っていたんだ。
でも、俺にいいところを見せたいって思ってたんだろ?!
・・・可愛いじゃないか。


「せっかくお前が始めた規格品だもんな。俺は、ちゃんと最後までやりきってもらいたい。それだけだよ。いくら豊臣が買い上げる事になったって、この商品は俺たちがちゃんと採算取れるところまで作り上げようじゃないか。」

俺は司の腕を掴むと言ったが、最後まで話を聞いてくれた司は、話し終わると俺の手を取った。

「・・・ありがとう、涼介。・・・オレ、何処かで豊臣の名前に安心してる所があって、単価を戻してもらう時にちょっと高圧的な事言ったんだ。”豊臣に対してわざと単価を吹っ掛けたのか・・・とか。そりゃあ気分も害されるよな。」

「そうだな。わざとであったとしたって、そこは一応下から物を言うべきだったな。ひょっとして間違えられてませんか?とかな。」

俺たちは、久々の新幹線の中で、仕事の事を語り合っていた。

こんな風に、同じ立場で仕事をすることはなかったから、ちょっと変な感じで。

何より、司がこんなにも余裕がないって状況になるなんて。
新たな発見だし、ちょっと可愛いとさえ思ってしまった。



岐阜駅からは、レンタカーを借りて小山商事へと向かう。
少し街からは外れたところに大きな工場が見えてくると、さすがに緊張してきた。

真柴の時にも何度かは訪問しているが、今回は司と二人。
しかも、向こうでは終わった話をぶり返しに行くんだから、さすがの俺も背筋に汗が伝うのを感じた。




- - - 

事務所に通されると、担当者の人がやってくる。

「お世話掛けます。すみません何度もお邪魔して・・・」
俺は司と二人、頭を下げる。

「いえいえ、別に何回来てくださってもいいですけど・・・」
そう言うと司の方を見た。

「あの、お電話では、失礼な事を申し上げて、すみませんでした。気を悪くされたと思います、本当に・・・」
そういう司に、担当も手をかざしながら「いや、そんな謝らなくても・・・・大丈夫ですって。」と言ってくれる。

「自分が、再度確認しなければいけなかったのに、矢野くんに任せてしまって、自分の落ち度なのに彼が何とかしようと掛け合ってくれたんです。ちょっと言葉が至らず・・・本当にすみません。」
俺ももう一度担当に謝った。

こういう時は、とにかく自分の非を素直に謝るしかない。
取り繕っても、話がこじれるだけだ。


「ま、あ・・・こちらも、豊臣さんの名前を出されてカチンときたのは事実です。立場的には買っていただく側ですし。でも、まあ上司が言ったことも、どうかと思いますよ。矢野さんを外さないと原料入れないなんて、ねぇ。」

担当者は少し困った顔で言いながら、
「うちの上司も、鬼のクビとったみたいな言い方して、申し訳ありません。あんなのは気にしなくていいですから。今まで通り矢野さんが進めて下さい。」
そう言うと出されたお茶をすすった。

「「ありがとうございます。」」

俺と司は口をそろえてお礼を言うと、深々と頭を下げた。





こんな風に、二人が同じ立場で仕事に携われるなんて思ってもみなかったけど、これはこれでいいな、と思った。

今までの、取引先という少し間のある関係から、同じものを作り上げる同志みたいな関係になって、司をより近くに感じられる。

帰りのレンタカーの中で、俺は司に聞いてみた。
「俺がお前を使えないヤツなんて思う訳ないのに、どうしてそんな風に?」

「だって、あの事務の娘たちを守れないって落ち込んでたじゃないか。前にオレが言ったから・・・、全部そのままの状態で新しい会社に移すって。それなのに、実際は違って・・・・お前の親父さんには自己破産させるし、事務員もクビにするし・・・。」

司は下を向くと申し訳なさそうに言う。

ハンドルを切りながらだから、ちゃんと司の顔は見れないけど、声の感じから伝わる辛そうな声が俺の心に響く。

冷酷なんかじゃない。司は感情が表に出にくいだけで、俺と同じ様に辛さを共有していたんだ。
俺の痛みも分かってくれていた。
なのに、俺は自分だけが辛いと思い込んでいた。


「司、・・・・ありがとな、俺の傍にいてくれて。」
そう言うと、片方の手をハンドルから離し、司の手元を探るとしっかり握りしめた。

「・・・・・・涼介・・・・。」

言葉は交わさなくても、心で繋がっている。
そんな気持ちで、俺たちは帰途に着いた。





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