『曇天の月』 080


 新幹線のホームで待っている間、俺と司はなんとなくいつもの調子が出なくて、言葉に詰まる。

来るときは勢いで飛び乗ってしまい、仕事の事を話していたから気にならなかった。
でも、今は・・・・・

二人で旅行にでも来たかの様な錯覚をさせる。

今までは車で遊びに行ったりして、ビジネスホテルで過ごすことはあったけど、二人で新幹線に乗ったのは初めて。
これでも仕事中。
不謹慎に喜んだりしてはいけないんだけど・・・・・。

「二人で新幹線って、はじめてだよな。」
俺が言えば、「そういえばそうだな。車ばっかりだもんな。」と、司も笑った。


男が二人で旅行とかしているのって、どうなんだろう。
もちろんノーマルなら気にしないんだろうけど、俺や司は人目を気にしてしまう。

男女のカップルは堂々と人前でも手を繋いだり出来る。
でも、俺たちは・・・・・

今だって、少し距離を開けながら立っている。スーツ姿のサラリーマン二人が、まさか付き合っているなんて思う人はいないだろう。
そんな風に思うのは、今どきの腐女子ぐらいなもんだ。

新幹線が到着して、中に入ると空いている席に座るが、不意に当たった手の甲が俺の熱を呼び起こす。

さっき車の中で繋いだ手が物足りなくて、もっと司に触れたいという衝動にかられる。

「会社戻ったら、すぐに打ち合わせするか。まだ倉田さんもいるだろうし、思ったより早い時間に帰れるな。」
司は俺に言うが、
「打ち合わせは、別に明日の朝でもよくね?直帰してもいいけど・・・・」
そう言って司を見た。

「ダメだよ。立花さんが豊臣になんて言ってくれたか分からないし、せっかくオレも参加できるんだ。すぐに話を詰めたい。」

「・・・ああ、やっぱり、そうだよな?!」

少しだけガッカリするが、まあ、こういう所が司らしい。
俺の甘えはここまでにしておこう。



- - - 

事務所に戻ると、立花さんが早速俺たちの所にやって来た。

「お疲れ様でした。豊臣の営業の中条さんが後で電話下さいって。・・・どうでしたか?」

「ああ、つか、・・・矢野くんは、今まで通りに一緒に組むことになった。」
俺の方を見て聞くから答えたが、立花さんも心配していたんだな、と思った。

「じゃあ、倉田さんを呼んできます。会議室で打ち合わせしましょう。」
「ああ、そうだな。」

司が言うから、俺も返事をすると会議室へ向かった。









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