『曇天の月』 082



 ドアを開けて、久しぶりに司の部屋の匂いを嗅ぐと、懐かしさを覚えた俺。

変な話、司の顔は毎日のように見ていたのに、匂いを嗅げていなかった。

- 変態か、俺・・・・・・

「その辺に適当に腰降ろしてて、今片付けるから。」

「ああ・・・」

テーブルに置かれた本を手にとると、昔、俺が工場の仕事を始めたころに目にしていたものだった。

「これ、織の”三原組織”の資料じゃん。・・・どうして司が持ってんの?」

不思議に思って聞いてみた。
あまり一般の目には触れないものだ。

「ああ、それは工場長の杉村さんに貸してもらって・・・。そういうの今まで知らないで仕事してたから。」

「へえ、そうか・・・。まあ、いくら繊維資材を扱っているって言っても、ここまで知ってる人は少ない。っていうか、多分知らないで売ってる営業の方が多いだろ。」

「そうなんだよ。オレも今まで知らなくて、織なんて工場の方で組織図出してもらってたし、糸量なんかも計算してもらってた。」
司は本を手に取ると、俺の前にコップとお茶を置いて言った。

帰りにコンビニで弁当を買って、そのまま部屋に来たけど、いつもは片付いている部屋が、今日はいたるところに本やら資料が置かれていた。

「ひょっとして、新しい会社に変わってからずっと勉強してたのか?」
周りに置かれたものを見て聞くと、「うん。」と小さな声で言う。


「なんかさ、・・・・恥ずかしいじゃん、織物の事ちゃんと知らないで売るばっかりって。今まで使い道を聞いて、新たな素材でできないかって話はしてきたけどさ、実際は組織によっても効果が変わるわけで・・・・」

「そう、確かにな。ただの平織ばっかりじゃない。フィルターなんかはハチス織になってて、ゴミを取りながら空気も通す構造に織られてる。出来上がったモノを売り買いしてる人は、そこまで知らない人もいるさ。」

俺はちょっと嬉しくなった。
今まで二人きりの時に、仕事の話はしていない気がする。

同じ仕事に就くって事は、こういういい面もあるんだな。
ひとつの知識を共有するっていうか・・・・・。

テーブルに広げた弁当を頬張りながら、俺は知っている織物の事を司に話す。
もちろん、俺自身もまだ勉強中だし、えらそうに教えられることは少ない。
でも、司は俺の方をじっと見ながら興味深そうに聞いてくれた。

「・・・・今までさ、・・・・お前に距離置こうって言われて、腹立ってたんだ。」

「え?」

突然司に言われて、思考が止まる。
確かに、ゴタゴタしてるときに言った覚えはある。

「今まで、オレがどんな気持ちで涼介と付き合ってきたか、全然わかってないって思って・・・」
コップのお茶をゴクリと飲みほすと、俺の方を睨むように見ながら言われ、緊張してしまう。

「どんな・・・・・って。前にもそんな事言ってたな。」
俺は、正直、好きだから付き合うってことぐらいしか思い浮かばなくて、もちろんずっと一緒に居たいし、暮らしたいとも思っている。
それ以外に、何を思って付き合うっていうんだろう・・・・・。


「涼介、月見るの好きだろ?!」

「え?・・・・うん、まあな。・・・・昔から何かっていうと月を眺めては色々考え事したり・・・・。」

- 急に変な事言ってんな・・・・・。

俺もお茶を飲みほすと、司の顔をじっと眺めた。


「オレは、月になりたいの。・・・・涼介の月に。」

司が俺の横へ来ると、肩に手を置いて言った。

- はぁ・・・・?突然、何を言い出すかと思えば・・・・・




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