『曇天の月』 083


なんだかわからないけど、司が『月』になりたいと言い出して.........。

繋げる言葉を探すが、見当たらない。


「え・・・・・っと。・・・・・・・どういう意味?」
素直に聞いてみた。


「だから、涼介が見たい時に見れる月、だよ。」

「・・・・ぁあ、はぁ・・・・。ごめん、分かんねぇ。」

せっかくの二人きりの場面で、俺だけがポカーンと口を開けているみたいで情けないが、司の言わんとする事が分からなくて。


「オレね、お前が工場継いでいくんだって思ってた。」

「あ?・・・・ああ、真柴の時の・・・・。でも潰れちゃったから。」
俺が言うと、司も少し肩を落とした。

「そう、・・・・でも、オレにとってはちょっと嬉しい事でもあった。不謹慎でごめんな。」

「いや、いいけど、なんで嬉しいって?」

「だって、涼介、結婚して子供作んなくてもよくなったじゃん。」

「は?」

司は一体何を考えていたんだ?
俺が子供作るとか、絶対有り得ないのに・・・・・・。

「二代目でこの工場が終わるなんて辛いだろうし、お前の親父さんだって涼介に継いでもらいたかったと思うよ。」

「まあ、な。・・・・けど、実際には無理な話だよ。世襲制で会社を続けていくってのは大変な事だ。俺だって、社長をやれる器じゃないし・・・・。ましてや、俺はゲイだよ。女と結婚なんてあり得ない。」


「いや、涼介は社長の器だと思うよ。少なくとも、涼介にならついて行きたいって社員は多いから。」

そんな風に司に褒められて、まんざらでもないけど、さっきの月になる話は何処へ行ったんだろう。
そう思っていると、司が俺の手を取って強く握りしめた。

「・・・・・司?」

「・・・ずっと考えてた。いつか、涼介は結婚して俺の前から去る時が来るだろうって・・・。」

「え?・・・そんな、こと・・・。」

「だから、オレは涼介が見たい時だけに見える月みたいな存在になろうと思ってた。何か困った時はオレに話しかけてくれるかもしれない。仕事の付き合いは切れないだろうし、オレも涼介を見られる。オレは最初から距離を取りながら付き合ってたんだよ。」

知らなかったとはいえ、切ない司の気持ちをわかろうとはしなかった。
俺が一緒に暮らしたいって言ったのを断っていた理由はコレだったのか.......。


俺が見たい時だけに、そこに居てくれるっていうのか?!
俺が見なきゃどうするんだ・・・・・司は、バカだよ。
俺は毎日、どんな時もお前だけを見ていたいって思っているのに。


「つかさ・・・・・・」
ギュっと繋いだ手に力をこめると、そのまま自分の方へと引き寄せた。

「キスしても、いい?」
司の目を見ながら聞いてみる。


「・・・・いちいち聞くの?」
司は少しはにかんだ。


「うん、久しぶりだから一応確認・・・。」

「いいよ・・・・」

目を閉じた司の睫毛が揺れるのを見ながら、そっと唇に触れると、少しだけ緊張する。

当たり前のように笑い合って、触れあって、一緒に居るものだと思っていたのが、突然失ってしまうかもしれないという不安に駆られ、あんなに落ち込んだ。

けど、司はずっと前から俺との距離感を保とうとしていたんだな。
そういう所が、冷静というか............。

............チュ、

音をたてた唇が離れると、俺は司の頬を撫でながら言った。
「俺が見たい時だけいるっていうなら、俺は毎日見たいんだけど。毎晩月に語りかけているんだ。最近は、ホントに毎晩だったよ。」

司の頬を撫でて、そこへキスを落とす。
次は瞼へ、それから鼻先へ指を這わすと、そこにも・・・・・。

瞼を開いた司が、俺の目を見るとゆっくり微笑んだ。

「りょうすけ・・・・・」

「・・・ん?」

「月ってさ、雨の日や曇り空だと見えないじゃん。」

「うん、そうだな・・・・。じゃあ、俺が見たくても見れない日もあるって事か。」
ちょっと残念な気持ちになり、司の首筋に顔を埋める。

「でもさ、月はちゃんと出てるからな。分厚い雲に隠されてたって、オレは涼介の事見てるよ。」
そう言って司が俺の頭をポンポンと撫でた。

- ああ、そうだな・・・・・

俺がちゃんと目を凝らせば、いつだってお前の姿は見られるんだ。

たとえ、雨でも、嵐の晩でもな.........。





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