『曇天の月』 085 [最終話]



 本当に驚いた時、人は言葉を失くす。
そんな状況の俺は、司が平然と言い放った言葉をもう一度思い出す。

「ごめん、涼介に話すの止めようかと思ったんだけど、隠してて変に取り繕うのも困るし・・・」

「・・・そんな・・・・・いつ話したんだよ。今の会社に入ってからか?」
俺は、今までそんな事を気にもせず普通に会話していた。
いや、普通よりは少ないか。
それでも、俺にしては頑張って話した方だろう。


「立花さん以外で、オレのことをツカちゃんって呼ぶ人。知ってるだろ?」
司がそう言うと、俺の中にあの人の顔が浮かんだ。

「まさか・・・・・・」

いつも飲みに行くバーのママ・・・・男だけどさ。

あの人、確か[立花はじめ]って言ったっけ。
今まで[ママ]としか呼んでいないから、忘れていた。

「まさか・・・・・・・・・、あのママの・・・・コドモ?・・・イヤイヤ、コドモって・・・・・!」


ちょっと頭が混乱する。
あの人ゲイじゃん。なんでコドモが・・・・・・。


「おい、涼介。何をさっきからぶつぶつ言ってるんだよ。」

「だって、俺、高校生の時から知ってるのに。まさか・・・・」

「あのさぁ、コドモじゃないから。あのママは立花さんのお父さんの弟。」

「ええツ?・・・そうなの?!」
また驚きが増した。
叔父さんだったって・・・・・・あのママが・・・・・?!

「たまたまオレが一人で飲みに行った日に、彼女が来てて偶然出会ったんだ。すごーく気まずかったよ。」

「そりゃあな・・・・・・・・。互いに、気まずいだろうな。」

立花さんと司の間に、何かあるって思ったのは、そういう事か。


「オレがゲイだって分かると、オレと涼介がそういう関係なんじゃないかって思えてきて・・・・・。それを確かめたくて移動の話受けたって言ってた。」

「ええ~っ!!なんて事を・・・・・・・・・。」

でも、それで腑に落ちた。
立花さんが、何か言いたげに俺を見ているような気がして、どうも苦手だったけど、俺に探りを入れてたって事か。
物好きだよなぁ。



「金曜日に話があるって言われてたんだけど、オレ、それどころじゃなくて・・・・・だから、日曜日に変更したら、お前たちに会ったってわけ。」
「ああ、イタリアンレストラン・・・。」

「兄妹の仲が良くて羨ましいっていったらさ、・・・・・もし、彼女とのデートだったらどうします?って言われた。」

「え?」

「その時の、オレの顔を見て確信したらしい。・・・それに、・・・立花さんは涼介に興味があったのさ。それもあって、余計にオレとの仲を詮索したんだろ。だから言っちゃった、オレたち付き合ってるって。」

「・・・・・・そうか。まぁいいさ、俺は司以外の人と付き合う気はないし、俺たちの関係が他の人にバレたっていいよ。その時は堂々と手を繋いじゃおうかな。」
そう言って司の手を取るとしっかり握りしめた。

「はは、涼介・・・・・。」

俺たちは手を取り合うと、そのままベッドに入り互いの身体にすり寄って眠りについた。

隠していたことがバレて、自分の人格まで色眼鏡で見られるかもしれないと思ったが、意外と焦燥感はなくて..........。

むしろ、司と堂々と付き合える喜びの方が大きかった。




あくる朝、俺と司が車から降りると、「おはようございます。」と背中に声がかかる。

声の主は、やはり立花さんで。

「おはようございます。」というと、俺は自分のネクタイを指差した。

「これ、自分にも似合いますかね?!」

「・・・・そうですね。矢野くんにも、真柴さんにも似合ってますよ。これからはお二人で一つのものを共有されたらいいんじゃないですか?その方が安上がりだし。」
俺の質問に答える立花さんの顔は、楽しそうに微笑んでいた。


駐車場から事務所までの道を真ん中に立花さんを挟んで歩く。

「いいですねぇ・・・・・この会社に来て、はじめてこんなにラブラブなお二人の顔が見れました。すこーし残念だけど、ツカちゃんの事、幸せにしてやってくださいね。」

そう言うと、俺と司の背中をバンバンと叩いて、一人だけ先に歩いて行く。


彼女の後ろ姿を目で追ったが、俺と司は互いの顔を見合うと笑った。

朝の澄んだ空気の中で、そっと天を仰いだ俺。

遠くのビルの上には、太陽の光にかき消されそうな月のシルエットが浮かんでいる。

でも、隣に目をやれば、絶対に消える事のない俺だけの月が笑っていた。


「さあ、今日も頑張りますかツ!!」

「おおっ!!」

軽やかな足取りで事務所のドアを開けると、今日も俺たちの一日が動き出した。



                
                  「完」




これにて『曇天の月』は終わりです。
今まで読んでくださり、拍手も頂けて本当に
感謝いたします。

ありがとうございましたm(__)m

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