境界線の果てには。(014)

教室の中に真咲の変な叫び声が響いて、みんな一斉に声の方向を見た。

広斗や高木も焦って振り返る。すると、真咲の体が前のめりになっていて、どうにか落ちるのを堪えていた。

「どうしました?そこの生徒」
教室に残っていた講師が、大きな声で真咲の様子を伺う。

「あっ、すいません。大丈夫です、ちょっと落とし物して・・・」
そういうとおとなしく席に着いたが、チラっと広斗の顔を見たので、目が合ってしまった。

―バカじゃねえの?アイツ・・・・
広斗は前に向き直って、だるそうに首を回した。

「医務室行って来いよ。薬もらって寝てろ。」
高木が広斗に囁くので、「うん」と、気のない返事だけした。

医務室にはもう長い事行っていない。
エレベーターに乗るときは、必ず真咲が一緒に乗ってくれて、女の子と二人きりになる危険を避けられた。
だから倒れる事も無くて・・・・。

―そうか、これからは階段使わないとな。
真咲が初めて俺を医務室に連れて行ったあと、なぜか二人で階段ばっかり使ってたんだ。
アイツ、俺が閉所恐怖症だと思ってたらしくてさ。階段で行くのに付き合うって言って・・・。

実際は、女の子と二人きりになるのがダメなだけだったんだけどさ。早とちりっていうの?バカみたい。

「連れてってやろうか?」
高木が言うので、広斗は首をぶんぶん振って断る。

カバンを肩にかけ席を立つと、真咲の方は見ずに後ろのドアから出ようとした。

その時、カバンを掴まれ
「おい、どうした?熱あるのか?」
真咲の声が広斗の足を止めさせる。

「・・・別に。関係ないだろ。」
そういうと、カバンを引き戻しドアから出ていった。

一瞬、二人の間には緊張感に似た空気が漂うが、広斗は疲れていたし、今は何も考えたくなかった。

心のどこかに引っかかっていた言葉。それが、何の気なしに口をついて出た。
いつか言わなければいけないと思っていたんだ。むしろ遅かったぐらい。

もっと早く言っておけば、昨夜みたいに疲れる事もなかったのかも。
医務室までの長い廊下は、広斗の後悔の念が伝うように、どんよりとした空気が満ちていた。


医務室のドアを開けるなり、
「久しぶりねえ、青木君。今日は自分で歩いてきたんだぁ、ふふ」
何度か世話になった女医が、嬉しそうに笑う。

「笑い事じゃなくて・・・熱あるんスけど。」
広斗がムッとして伝えるが、別段気にする様子もなく冷え○タをよこすと、ベッドをあけてくれた。

「ノドが少し赤いけど、なんか歌ったり叫んだりした?一応炎症にきく薬は出しておくけど。」
ベッドに腰掛け、大きく開けた口を覗くと校医が言う。

そういわれ、昨夜の事がまた思い出された。
―あ~、それでか?・・・・・・まあいいや、少し寝ておこう。

広斗が上着を脱いで、ベッドに潜り込むと、
「次の時間ちょっと抜けるけど、いいかしら?用事あったら職員室に来てくれるかな。」と、校医が言った。

「・・・はい。大丈夫です。」と広斗はベッドの中から答えるが、もう半分瞼が閉じていた。
それほど身も心も疲れていたのだ。


次に目覚めたのは、聞きなれた声と共に、冷たい何かが広斗の唇に触れたからだった。







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