【曼珠沙華】 炎に落ちる 008


 机の上に置かれた時計の針が夕方の5時を指していたが、勉強は思いのほか進んでまだまだ終わりそうにない。

俺は心の中で、この後解散したら、もう会うことはないんじゃないかと感じ始めていた。

学校の通学方向も違うし、この2年間も会わなかったんだ。
何の接点もない俺たちに会う理由は見当たらない。
そう考えると、つい口から言葉が出た。
「桂、良かったら時間ある時・・・・・勉強教えて。数学と英語全くついて行けてなくて、さ。」


「・・・・うん、いいよ。千早がそうしたいなら、オレは部活も入っていないし、時間はあると思う。」
快く桂の返事をもらえて胸を撫でおろす。

「え~~~、いいなあ、千早は。家近いし暇だしさぁ。」
長谷川がムスッとして言うが、俺はそんな事気にも留めていない。
桂との〈トモダチ〉関係をやり直したくて、恥を忍んで言ったんだから・・・・・。


「暇って・・・・あ、そうか部活はもう終わり?千早って陸上やってんの?」
桂に聞かれて、ちょっと嬉しくなった。

「ううん、陸上は中学で辞めた。高校は美術部。つっても、ほとんど帰宅部なんだけどさ。」

「コイツ、結構絵の才能あるらしくてさ、ナントカ展っていうのに入賞したんだよ。意外だろ?!」
長谷川が俺の肩をポンポンと叩くと、向かいに座る桂に言った。

「へぇ、すごいなぁ。あ、でも千早ってデザインもの好きだもんな。自分でアクセサリーのデザイン画描いたりしてたし。」

「まぁ・・・・・な。服とかそういうの好きだから、いろいろ描いたりはしてるんだ。」
ちょっと照れくさいが、長谷川が言ってくれて、桂にも俺の事を知ってもらえたのが嬉しかった。
離れていた2年をどうしたら取り戻せるんだろうと思っていたから・・・・。

「中学の時も服屋をやりたいとか言ってたよな。・・・・デザイナーになったらいいのに。」
桂が俺に笑いかけると言った。

「うん、・・・・なれたら、な。」

「なれる、なれる。千早は何にだってなれるさ。」
長谷川が、俺たちの会話に入り込むと言ったから、そこで笑いが出てこの話は終わった。


しばらくすると、桂のおばあちゃんがパートから戻ってきて、夕食の支度を始めたから俺たちの勉強タイムも終わりを告げる。

帰りぎわ、「オレ、携番変えてないから・・・・・、また電話して。勉強する時・・・・。」
そう桂に言われて、「うん、分かった。電話するから・・・・よろしくな。」
俺は胸が熱くなるのを押さえて言った。

「「じゃあ、ありがとう。またな。」」

長谷川と二人、桂に礼を言って家を出た。



「良かったな、桂、前のまんまで。」
「・・・・え?」

長谷川が分かれ道に差し掛かると、俺に言った。

「なんかケンカしたまんまは、お互いに気まずいもんな。これで、同窓会とかあっても来られるじゃん。」

「・・・・ああ、そうだな。・・・・ありがとな、気イ使ってくれたんだ?!」

「まぁな、付き合い古いし。おれだって気まずい二人の間には居たくないからな。」

- 長谷川のヤツ・・・・・

「じゃあ、また学校で。」
「おう、バイバイ」


長谷川と別れて自宅へと戻ると、心の底から安堵する自分がいて、一人で可笑しくて・・・・。
ホッとしたような、浮かれてるような・・・・・・・。

長谷川が言ったように、桂が昔通りでよかった。
俺がひとりで気負い過ぎていたんだ。

あの事を考えるのは、もう止めようと思った。
俺がホモかどうかは、桂には関係ないんだ。
アイツには彼女がいて、大事にしている。
俺は、また昔の友達として仲良くできたら、それでいい。


その晩は、少し興奮していたのか、なかなか寝付けなくて。
桂からもらった写真がバッグに入れっぱなしだったのを思い出した。

- そうだ、一応アルバムに貼っとくか・・・・。

写真立てのままくれたから、中から写真を抜き出す。

中学時代の楽しい思い出。
陸上はキツかったけど、大会の時は桂も応援に来てくれたっけ・・・。

みんなと映った写真を見ながら思い出に浸る。

俺ひとりの映る写真をはずすと・・・・・。

- こんな、俺だけの写真まで飾っとくなんて・・・・。
渡すの忘れない様に出していたんだろうか。

そう思って何気なく裏を見た。




- 大好きなチハヤ 15才 - 




桂の書いた文字を見て、俺の心臓は止まりそうだった。



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