【曼珠沙華】 炎に落ちる 012


 ホッとしたのも束の間、サンダル男は俺の後から付いてくる。

まあ、たまたま同じ駅で降りて行くところがあったんだろう。
そう思って俺は知らん顔をすると先を急いだ。

改札を抜けて、さすがに別方向へ行くんだと思ったら・・・・・・・

さすがに、後を付けられているような気になる。

俺はその場に立ち止まると、サンダル男が追い越していくのを待った。

チラリと振り返るが、声は掛けられなくてホッとする。


- そうだ、アイツが向こうに言っちゃってから帰ろう。

そう思って、なんとなく携帯に手を伸ばすと、桂の番号を開いた。


- もう家に戻ってるかな・・・・。
試験の前にもう一度教えてもらっとこうかな・・・・。

しばし考えて、やっぱり携帯を仕舞う。

この間の晩の記憶が生々しくて、もう少し薄れてからにしようと思った。
気持ちの中では、もうあんなことはしないと心に誓ったが、雑踏の中を歩くと、ポケットに手を突っ込んで携帯を握り締める。
ここに桂の携番が入っていて、俺たちはずっと繋がっていたんだ・・・。
そう思うと、嬉しいような寂しいような、ちょっと複雑な心境だ。

〈トモダチ〉に戻るのって、案外難しいものなんだな・・・・。



商店街に差し掛かると、駅から歩く事15分。
実家の花屋の前に着いた。
所狭しと花の入ったバケツや鉢物やらが置かれていて、母親が大きな花束をラッピングしている。

3階建てのビルの1階は店舗で、2階3階が自宅になっていたが、店の奥に自宅へ続く階段があった。

「あ、お帰り。」
俺に気づくと、ラッピングの手を止めて母親が言う。


「・・・おう、」
小さく返事をして奥へ行こうとしたが、俺の足が止まった。

- 居た。

サンダル男が、奥に置かれたテーブルでお茶を飲んでいる。

「・・・・・」

「あれ?・・・少年はここの子だったのか?」
気づいて俺を見るが、驚きながらも笑っている男。

- もう、本当に今日はなんて日なんだ!
心の中で叫んでみたけど、一応は客らしいから頭を下げておく。

「どうも・・・・。」
それだけ言って2階へ上がろうとしたが、「ちょっと千早、手伝って!!」と母親に呼ばれた。

「チハヤ、っていうのか・・・可愛い名前だなぁ。お母さんのセンスですか?」
そう母親に聞いている。

「はははッ、実は旦那がつけたのよ。きっと昔の女の名前かなんかでしょ?!」

俺の母親は、実にあっけらかんとした性格で・・・・言わなくてもいいことを言う時がある。

「なんだよ。何を手伝えば?」
椅子の上に鞄を置いて近づいた。

「コレ、天野さんのお店に運んで。ひとりじゃ持ちきれないから・・・。」

「え?・・・・店?!」


- このサンダル男は 天野 という名前らしい。

「悪いね、チハヤくん。店の女の子が誕生日でさ、花が無いと盛り上がらないじゃん。」

- あぁ、キャバクラか何かか・・・・。

そう思った俺はちょっとムスッとしながら「俺、未成年ですから、そういう店には・・・・」と言ってやった。

目の前で、キョトンとするサンダル男、もとい、天野さんが俺の顔をじっと見る。


- なに・・・・・?!なんか、変な事を?
母親の方に顔を向けると、クスクス笑っている。

「天野さんのお店って、美容院。ヘアーカットするトコよ。あんたもその変な頭、切ってもらいなさい。」

「ええ・・・・・?美容院?!」






ご覧いただき有難うございます
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村



ここで登場する花屋は、「カザミドリ」の友田さんのおうち。(時代を遡っているので、そうなるのはまだまだ遠い先の話ですが。)

スポンサーサイト

コメント

非公開コメント