【曼珠沙華】 炎に落ちる 013



 どことなく、ファッションセンスは普通の人よりイイ。
でも、裸足にサンダル履きはちょっと・・・・・。

まじまじと天野さんの顔を見つめてしまったが、
「そうだ、良かったらオレが切ってあげるよ。もちろんタダでいい。」
そう言われ、母親の方を向くとニンマリ笑っているから、俺はそうさせてもらうことにした。

美容院ってなかなか入りづらくて、かといって母親と一緒は嫌だし、父親なんかと床屋に行った日には、バリカンで刈られそうだし。
丁度良かったと思った。

「お言葉に甘えて、よろしくお願いします。」
頭を下げながら言うが、さっきまでの俺はこの人を気味悪いヤツだと思っていたのに・・・・。
なんて変わり身の早い男・・・・・。


ラッピングの終わった花束を2つ抱えて、天野さんの後について行くと、駅前の大通りに面した美容室へ案内された。

「ここですか・・・・・?」

「そう。」

「すごいですね・・・。」

俺が感心したのは、その店舗の大きさだけじゃなくて、髪の毛だけじゃなく、メイクのスタジオみたいなコーナーもあるからだった。

「初めて見た。成人式とか結婚式の着付けなんかもするんですか?メイクも?」

ちょっとワクワクしながら聞いてみるが、天野さんは特に表情も変えずに頷いていた。
大きな花束を店のテーブルの上に置くと、俺はぐるりと辺りを見回す。

もう終了時間が近いのか、お客さんは2~3人だったが、スタッフが4~5人いて俺と天野さんをじっと見ていた。

「チハヤくん。そこのシャンプー台に座って。ざっと流すから。」

そう言われて、シャンプー台の椅子に腰掛けると、首にタオルを巻かれて頭をシャンプー台につける。

「え、・・・天野さんが流してくれるの?」
俺が驚いて聞くと、
「そう、すべてオレがするの。他の子に触らせるの勿体ないもんね。」
そう言って、俺の顔の上に、フワリと何かをかけた。

しばらく流してもらい、ざっと拭くと、タオルに包まれた頭をポンポンとされて、鏡の前に座らされた。

奥でスタッフがこちらを見ているが、何も言わないまま。

「チハヤくんって、髪の毛濡れると益々きれいな顔してるの分かるねぇ・・・。お母さんに似てるんだね。」
「え?・・・・・っそんな事・・・・・ないです。」

凄く気恥ずかしい。
母親に似ていると言われるのは昔からだけど、キレイとか言わないでほしかった。
男の俺が綺麗でも何の得にもならない。


「どうしよっかな~。あんまり短くするのは、雰囲気変わり過ぎて良くないし、長い髪が似合ってるからね。少し削るぐらいにして、軽くするだけにしとくね!?」

「はい。」

何でもいい。俺は天野さんに任せる事にした。

じっと鏡に映る姿を見ていると、あのヘラヘラした顔が案外真剣な顔になってきて、勝手にキャバクラを想像して申し訳なく思った。
ちゃんと美容師なんだな。

軽快にハサミの音がして、俺の髪は自然なスタイルを保ちつつカッコよく整えられていった。

「はい、これでいいよ。」

「ありがとうございます。」

一応お礼を言うと立ち上がる。

さっきのお客さんはもう帰った後で、スタッフの人だけが俺の終わるのを待っていた。
なんだか申し訳なくて、「すみません。時間貰っちゃって・・・・・。天野さんも、大丈夫ですか?片付けとか掃除とかあるのに・・・」
そう言って天野さんとスタッフの人に頭を下げた。

奥に居た女性スタッフが、俺の所に近寄ると、
「大丈夫ですよ、オーナーは掃除とかしませんから。私たちが、今からします。」
俺のタオルを外しながら言った。

「・・・オーナー???」

俺の問いかけに、ニッコリ微笑む天野さん。

どう見ても20代の半ば。とてもオーナーには見えなくて・・・・・。
世の中には、チャラくても人の上に立てる人間がいるんだと分かった。
それから、自分のこの人を見る目が、あまりにも陳腐で申し訳ないと反省した。




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