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【曼珠沙華】 炎に落ちる 022


 電車を降りると、速攻で家まで帰る。

店にいた母親が、俺に気づいて近寄ってきたから「ただいま。」と言ったが、その顔は少し怒っているようで。


「あんた、何やってんの?天野さんの家で熱出すとか・・・・。勉強なんて慣れない事してるから。」
そう言って俺の頭を小突いた。

「痛ぇな。そこは、子供が勉強して喜ぶトコだろ。・・・まあ、天野さんには迷惑かけちゃったけどさ、でも、あの人俺が頼んでもいないのに連れてっちゃったんだよ?!」

「うちが留守にしていたからでしょ。ちゃんと朝言っといたのに・・・・。」

「まあ、今度なんかお礼しといてよ、花束でも。俺、今夜は桂の家で勉強すっから・・・・適当に晩飯食ったら行ってくるな。」
階段を上がりながらそう言うと、母親が「そういえば・・・。」と言いかけて止めた。


「何?」
気になって階段の途中から母親の顔を振り返った。

「桂くんのとこ、離婚しちゃったらしいね、ご両親。」

「え?」
そんな話、今初めて聞いた。この間桂の家に行った時も、帰り道で会った時もなにも話してはくれなかった。
「そうなんだ?!俺聞いてないよ・・・・」

「あ、そう?・・・じゃあ、言いたくないのね。おばあちゃんがこの間そんなことを言っていたからさ。もう1年も前の事らしいけどね。」
母親はそれだけ言うと、また店の奥へと戻って行った。

- 1年も前って・・・・俺たちが疎遠になってからじゃん。そんなの知るわけないって!

部屋に行くと、取り敢えず持って行く英語の教科書だけ机の上に出しておく。
それからシャワーを浴びて、夜帰ってきたらそのまま寝られるように、明日の準備もしておいた。

なんとなくソワソワして落ち着かないけど、俺の中の桂は友達の中でも特別な存在になっている。
昔からそうだ。
長谷川や柴田としゃべるのは面白いし、楽しい時間なんだけど、桂と居る時間とは違っていた。

桂の家に着くと、玄関のチャイムを鳴らす。

昔は、庭へ回って勝手に上がり込んでいたのに、と思っているとドアが開いた。
「よ、」と言って中へ入れてもらうと、奥にいたおばあちゃんが「いらっしゃい、ゆっくりしてってね。」と言ってくれた。

「はい、お邪魔します。」
ちょっとだけかしこまって挨拶をする俺。

隣では桂がクスッと笑う。
俺も少し恥ずかしくなるけど、そのまま桂の部屋へと入った。


「熱、本当に下がったのか?風邪ひいた?」
桂がテーブルの上に教科書を出すと聞いてくれた。
そんなことも嬉しくて.......。

「なれない勉強するからだって、うちの母親に言われた。・・・もう大丈夫だよ。」

「それならいいけどな、あんまり詰め込まない様にするから。」
そういって笑うから、俺もつられてにやけた。

「英語は、文法も大事だけど、とにかく単語を覚えないと始まらないよ。単語帳とか作ってる?」

「え?そんなのないけど・・・。試験の前に詰め込むだけだし、あんま使わねえし・・・。」
俺が言うと、桂はキョトンとなった。

「・・・・単語が分からなきゃ、何を聞かれているのか分からないじゃん。中学の時も作っただろ?!」
半ば呆れ顔で言われ、俺も確かにそうだと思ったが、ちょっと悔しくて黙っていた。

「ま、あ・・・いいや。自分が前に作ったのやるから、とにかくそれで単語は覚えて。じゃあ、こっちの問題から。」
桂が俺の教科書のページをめくった。

やっぱり、こういう所も変わっていない。
なんていうか・・・・俺を引っ張ってってくれるっていうのか。
一緒になってガチャガチャするんじゃなくて、見守ってる感じ?!

- はは、、、、なに感心してるんだか。

桂の英語の発音はすごく綺麗で、時々何を言っているのか聞き取れないほどアメリカ人っぽい。
それだけ勉強しているんだと、改めて感心した。






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