【曼珠沙華】 炎に落ちる 023



 かれこれ1時間は勉強しただろうか、あんまり遅くなっても家の人に悪いと思って桂の顔を見る。
「そろそろおばあちゃんたち寝るんじゃないのか?あんまり遅くなると迷惑だな、俺。」

そう言うと、桂は英文を書く手を止めた。

「いいよ、別に騒ぐわけじゃないし、オレだって寝るのは遅いんだから。千早が帰りたいなら止めないけどさ。」

「や、・・・・・そういうんじゃないけど・・・・。」
ちょっと空気が変わる。
勉強から少し脱線して、俺は桂と普通に友達としての会話をしてみたくなった。
例えば、この間あった彼女の話、とか・・・・・。

「あのさ、この間チラッとしか見なかったけど、彼女可愛い感じの娘だな。小っちゃくて、髪の毛綺麗で・・・。よかったな、彼女出来てさ。」
そんなことが口から出てしまった。

「ああ、可愛い娘だよ。オレが勉強できない子はちょっと、って言ったら塾へ通い出しちゃった。そんな事しなくてもいいのにさ。」

桂の口から、そんな言葉が出るとは思っていなかった。
ちょっと女の子を笑っているような感じに取れて、俺は気に障る。

「そういうの、健気っていうんじゃないのか?桂に良く思われたいんだよ、きっと。」

「・・・・そうかもしれないけど、そういうのはちょっと違う。」
英文を書き終わると、ペンを置いて言った。
桂は俺の顔を見ると、首を傾げる。

「なに?」
何か言いたそうな目で見るから聞いてやった。


「長谷川から聞いたんだけどさ、千早、高校入ってからも女の子と付き合ったことないって。」

「え?!・・・・そんな事・・・・。別にいいだろ!俺の事なんて。」
なんとなく自分が劣っているようで、恥ずかしくなる。
俺の場合、それ以前にクリアにしなきゃならない事があるんだ。
そこが曖昧だから誰とも付き合えない。

「もしかして・・・・昔オレが言った事、気にしてんのか?」

桂が、静かな声で言った。

「千早にキスしちゃったしな。・・・・・あの後、しゃべってくれなくなったから、怒ってるんだと思ってた。それに、ホモじゃないかって言っちゃって・・・・。」

「・・・・・・・・・・、それは・・・・。もういいよ、そんな昔のことは。今はまだ気に入った女の子がいないだけで、そのうち探すから。」

本当は、桂に俺の悩みを正直に話すべきかもしれない。
そうすれば、きっと何かしらの答えをくれるんだろう。
でも、桂には知られたくなかった。俺が本当にホモかもしれないなんて、そんなことが分ったら友達じゃいられなくなる。
もちろん長谷川や柴田にも、だけど。
桂にだけは、絶対知られたくない。

「俺、帰るな。やっぱり今日ぐらいは早く寝ないと。・・・じゃあな。」

「ああ、分かった。・・・・ごめん、変な話持ち出して。」
桂が謝るから、かえってこっちが申し訳なくなる。

結局、俺はあの日から何も変わっていない。
桂にキスされて、反応してしまった自分がずっと後ろめたくて.......。

なのに、自分ではどうすればいいのか分からなくて、また桂を遠ざけてしまう。





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