【曼珠沙華】 炎に落ちる 026



 天野さんの、長くて節のない綺麗な指が、モデルさんの唇に紅を差すのを見ていた。
半開きの口元が艶めかしくて、見ているだけで吸い込まれそうになる。

こういうのは何というのだろう。
相手が女とか、そういうことじゃなくて、ただただ艶めかしいんだ。
その唇に触れてみたいと思うのは、別におかしいことじゃないよな・・・・。

しばらくすると、天野さんが俺の方を振り向いて笑ってくれた。

「ちょっと待ってて、すぐ終わるから。」
そういうと、最後の仕上げなのか鏡に映ったモデルをもう一度見た。

「はい、じゃあヘアアレンジは加藤さん、お願いします。」


メイク道具をざっと仕舞うと、俺の座る場所までやってくる。

「あれから熱は出なかったか?今日はどうした?」
隣に腰を掛けると聞いてくれて、なんだかぼーっとしていた俺はハッとなった。

「あの、・・・有難うございました。熱はもう大丈夫です。・・・あっ!お礼の品、忘れちゃった!!」

母親に花束でも渡しておいてと言っといて、自分が忘れるとか・・・。

「はは、いいって、お礼とか・・・・。なんかあったのかな、学校から直接来たんだろ?!」
俺がカバンを持ったままなので聞いてくれたが、ここで話をするのはちょっとマズイ。

「えっと、ちょっと疑問っていうか・・・聞きたい事あったんだけど、ここでは・・・。」

「あぁ、・・・・だったら、この上の部屋の方で話そうかな。オレの借りてる部屋があるからさ。」

そう言って、俺のカバンを手に持つと歩き出した。

「え?ああ、すいません・・・・。」
焦って天野さんの後を付いて行くが、部屋を借りているっていうのが気になった。
先日の家は、自分の家じゃないのかな・・・。


「後はよろしくね。何かあったら上にいるから、呼んでくれ。」

スタッフの人にそう言って、一旦店から出るとビルのエレベーターに乗って5階まで上がった。
今まで気づかなかったけど、このビルは5階から上がマンションみたいになっていて、下の店舗の雰囲気とは違っていた。

俺は後を付いて行くだけで、言葉は発しないまま。
天野さんも、歩きながら話を聞くわけにもいかず、黙って俺を案内した。

ドアノブにカギを差し込むと、天野さんはゆっくりドアを開いて、俺を先に入れてくれるみたいに立ったままだった。

「お邪魔します。」
俺はそういうと中へと入ったが、少しだけ緊張する。

自分は、興奮に任せてここまで来てしまった。
天野さんに聞けば疑問が解決すると思ったんだ。

「そこ、座ってて。」と言ってソファーを指差したので、俺はカバンを下に置いて腰掛けた。

赤い革張りのゆったりとしたソファー。
外国製なのかな、座面が広くて横になったらベッドになりそうだった。

「すごく座り心地いいですね、コレ。どこのですか?」

「そのソファーはイタリア製。本当は黒の皮が欲しかったんだけどね、こっちのがいいんだってさ。」
天野さんは、俺にお茶を入れてくれて、サイドテーブルに置くと言った。

「ああ、黒もいいですけど、俺もこの赤の方がオシャレかなって思います。天野さんのイメージに合ってるし・・・。」
なんて、ちょっと大人ぶって言ってみるが、本当の良さなんて分からないんだった。
俺の場合は、感覚だけでいいとか悪いとか言うだけ。
物の良し悪しは、いまいちわからないんだけど・・・。

「気にいってくれたんなら嬉しいよ。・・・で、話って?」
ゆっくりと隣に腰を降ろすと聞いてくる。

「えっと、・・・」
俺は少し間をあけて、続きを話した。





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