【曼珠沙華】 炎に落ちる 037



 バスは、桑田さんの通う塾のある大通りに停車した。

俺もここで降りて、家まで歩いて帰ろうと思ったから彼女の後に続く。

夕方の人通りの多い時間帯で、ザワつく通りを並んで歩くと交差点に差し掛かり「俺はこっちなんで。」と言って手を振る。

「じゃあ、有難うございました。・・・あの、秀治くんによろしく。」
そう言って手を振ると、桑田さんは通りを歩いて行った。

よろしくって言われても・な・・・。


交差点で信号待ちをしていると、向かいの通りで同じように信号を待つ人が。
見覚えのあるその人は、隣のキレイな女の人と楽しそうに会話をしている。
俺が見ている事には気づきもしないんだ・・・。

信号が青に変わり、前へと歩き出すが俺の視線はずっと釘付け。


「おっ!!千早くん。・・・出掛けてたの?」
やっとすれ違いざまに俺に気づいて声をかけてくれた。

「うん、・・・またね!」
軽く笑うと前を向く。

後ろで笑い声が聞こえ、俺の胸はちょっとだけチクリとした。


横断歩道を渡りきって後ろを振り返る。
向かいの通りを並んで歩くのは、天野さんと知らない女性。

- 彼女・・・・?
じゃないよな。・・・特定の相手はいなさそうだし・・・。


〔バイ〕っていうのは都合がいい。
その日の気分で男を抱いたり、女を抱いたり・・・・・。

俺には無縁の世界だ・・・。

本当は、今夜は天野さんの所へ行くはずだった。
柴田に付き合って、俺がキャンセルしたんだけど、だからってすぐに別の相手を連れているってのが気に食わない。
別に、俺と天野さんは付き合ってる恋人同士じゃないけど・・・・・。

なんだか、今日の俺は変だ。
 桑田さんには恋する乙女の話を聞かされて、おまけに桂が俺にウソをついた事も分かって、自分の知らない事ばっかりがぐるぐると頭の中を回っている。

突然身体をひるがえすと、信号が変わる手前で猛ダッシュして横断歩道を渡り切った。

そのまま天野さんの店のある方向へと走ると、目の前に二人の姿が・・・。

「天野、さんツ!!」

俺は大声で名前を呼んだ。

天野さんは、キョトンとした顔をして振り返ると俺を見た。
隣の女の人もつられて見てくるが、そんなのは構わずに、俺は天野さんの腕を取る。

「ど、どうしたんだよ・・・、いったい・・。」

「俺と約束してたの忘れた?」
「え?・・・イヤ、そっちがダメになったって・・・。」

天野さんはちょっと困った顔になる。

「あの、・・・・?」
隣の女性も訳が分からず困っているようで・・・。

「・・・ごめん、用を済ませないといけないからさ、千早くんは上の部屋で待ってて。え、っと・・・2時間くらいかかるけど、いい?」

「うん、いいよ。」

上の部屋っていうのは、美容室の上に借りているマンションのこと。
営業中は、そこが事務所の役目をするらしい。チーフとかスタッフも出入りするから、ゆっくり寝る訳にはいかない。
でも、店が終わって帰りが遅くなる時は、そのままあの部屋に泊まる事もあるようで。

天野さんは何処でも眠れるって言ってる・・・。

俺は、言われた通りエレベーターで上に上がると、天野さんの部屋へと行った。
預かったカギで中へ入ると、テーブルの上に外国の雑誌が無造作に置かれていて、今日はスタッフが来ていないんだなと思った。

スタッフが出入りする時は、きちんとテーブルや机の上をかたずけておいてくれる。
天野さんは、スタッフ任せの所があって、ここでの生活の全般を周りの人にしてもらっているようだった。
離れた自宅だけは、天野さんが管理しないといけなくて、一応きれいにはしている。

- はあ・・・、うちの母親だったら大目玉だよな。
ちゃんとかたずけろってうるさいのなんの・・・・。

俺は、雑誌を整えて片隅に置いた後で、一人ポツンとソファーに腰掛けた。

なんだか勢いで来てしまったけど、何をしたかったんだっけ・・・・・?

ゆっくりと天井を見ると、しばらく考えて目を閉じる。






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