【曼珠沙華】 炎に落ちる 042



 カーテンから洩れる光で、空が明けてきたのが分かると、心地良い眠りから覚めた俺の目に飛び込んできたのは、ベッドの上の惨状で。

まるで流血沙汰のように、赤い血糊の様なものが辺りにこびりつき、それが昨夜食べたイチゴだと分かるまで時間がかかった。

「あ、まのさん!!大変っ・・・・!」

隣で眠る天野さんの身体を大きく揺すると、目を開けるまで続ける。

「あ。。。」

目を見開いた天野さんが声を上げ、再び俺の顔を見る。

「取り合えず、シーツを剥そうか!?」
「うん、」

俺たちはバスローブを羽織ると、二人でベッドの上のシーツやベッドカバーを剥し始めた。

「ヤバイなぁ~。もう捨てるしかないな。これじゃあクリーニングに出せないや・・・。」
「洗濯機に押し込んで洗っちゃえば?」
丸めたシーツを手にして言うと、
「ダメダメ!!スタッフに見られる。服なんか脱いだままにしておくと、きちんと畳んでしまってくれる娘たちなんだ。」


仕方なくゴミの袋を持ってくると、きれいに丸めて証拠を見られない様に畳んで入れた。

ちょっとふざけすぎたか・・・。
俺の身体もベタベタして気持ち悪いや。

「シャワー浴びよう!」

天野さんの言葉にうなずくと、二人で風呂場へと行った。






- - - 

マンションのエレベーターに乗ると、下の美容室まで降りる天野さんについて行く。

店の中へは入らずに、出口で別れて家へ帰ろうとエレベーターを降りた時だった。

「千早?!・・・・えっ?」

聞き覚えのある声で呼ばれ、後ろを振り返る。


天野さんと並んで歩く俺の後ろに立っていたのは、うちの母親で。

「..............っ!!!」

肝を冷やすって言葉を身をもって体験した俺。



ドキドキして言葉の出ない俺に代わって、
「おはようございます。」
と、天野さんはニッコリ笑いながら挨拶をした。


「あ、おはようございます。・・・あの、うちの息子・・・・?!」
そこまで言った母親は、俺の態度が変だと分かったらしくて、口をつぐんでしまう。

きっと、問い詰めたら良くない何かを感じたんだろう。

「千早、あんたは休みでも、天野さんはお仕事があるんだから、邪魔しちゃダメでしょ!」

「・・・・。」

天野さんの隣で俺は小さくなる。
補導された生徒のように、じっと俯いていた。

「すみません、お母さん。・・・僕が誘ってしまったんです。カットモデルの打ち合わせをしているうちに、つい夜更かしして話し込んじゃって・・・・、叱らないでやってください。僕が悪かったんで。」

心の中で、『えっ!?』と叫んだが、ここは天野さんの言葉に便乗するしかない。


「てっきり柴田くんの所に居るものと思っていたから・・・、それなら電話してきなさいよ、千早は!」

「・・・うん、ゴメン。」

俺は謝るだけ。
まあ、女の子の家に泊まったわけじゃないし、母親もそれ以上は何も言えなかった。

「じゃあ、有難う。また連絡するね。」と、天野さんが言えば
「はい。」と返事をする。

俺たちは、互いに目で合図をすると離れたが、「失礼します。」と母親に言った天野さんに「有難うございました。」と、礼を言う母親。

天野さんが店に入って行くのを見送ると、俺は母親と二人、ビルを後にした。

肩から下げられたポシェットで、今朝は美容室の観葉植物や鉢物の手入れをしにきたことが分かる。

花ばさみの入ったベージュの革のポシェットは、俺の母親の商売道具。
斜め掛にすると、小ぶりなサイズのポシェットは道具を入れておくのにちょうどよかった。
俺が2年前に買ってやったモノを未だに大事に使ってくれているんだ。


「これ、結構気にいってるのよ、あたし。」

ポシェットに目をやった俺を見上げると、母親はフフンと笑いながら言った。

「そう、・・・よかった。」

俺は少しバツが悪くて・・・・。
ウソをついて、天野さんの所に泊ったこともだけど、俺が自分の性癖に気づいて、それを親に隠さなきゃならないって事が申し訳なかった。彼女の家に外泊する方が良かったのかもな・・・。

「ごめんな。」

小さな声で、もう一度母親に謝る。
それは、色々な意味を込めて言ったつもりだった。


「天野さんは大人だからいいけど、・・・千早は自分が興味を持つと、周りが見えなくなるのよ。そこだけが心配。」


この言葉は、俺の胸に深く浸み込んだ。

どういう意味で言ったのか分からないけど、今の俺が天野さんに惹かれているのは確か。すごく興味を持っている。
俺の性癖を分かってくれて、楽しむことも教えてくれた。


でも、身体の事だけじゃなくて、あの人がどうやって世の中を渡っているのかも知りたかった。
俺もいつか店を持って、いいスタッフに囲まれて仕事をしたい。


俺の中で、チャラチャラした気味の悪い男は、いつの間にか憧れの人になっていたんだ。





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