【曼珠沙華】 炎に落ちる 044



 イブの夜、クリスマスソングがひときわ大きく流れると、商店街も最高に賑わって人が溢れているようだった。

ここから少し先の大通りに出ると、繁華街に行くにも近いし、普段から夜は人通りが多い。
平日は8時ごろシャッターを閉める店も、これから年越しまでは遅くまで店を開けていた。

むかし、中学生の頃は、そういうのが楽しくて友人がうちへ泊まりに来ると夜更かしをしたものだった。
でも、さすがに高校生になったら、それぞれに彼女と過ごすことも増えて・・・。

柴田は、あの後中島さんとは友達として会っているらしい。
たまのメールでは、’新しい発見’と題して中島さんの可愛い所を報告してくれ、ちょっとウンザリしている俺。



「そういえば、桂くんの名前聞かないわねぇ・・・。また付き合うようになったんじゃなかったの?」

店番する俺に、母親が言った。



「あぁ、桂は・・・・、勉強の邪魔しちゃ悪いしさ。最近は会ってないよ。」
「そうなんだ?!」


改めて桂の名前が出てくると、俺の心の隅っこにしまったものが顔を出し始める。


初めて、天野さんに身体を投げ出した日の翌朝、桂の顔をまともに見ることが出来なかった。
あの時、俺の中でしっかり境界線を引いたんだ。
俺と桂は〈トモダチ〉のやり直しをするはずだった。
そして、それは勉強を通じてできたはずだったんだ。なのに、あの朝のアイツの姿を見たら・・・・・。

それに、もう一つ。
桑田さんから聞いた二人の関係について、俺にウソをついた桂の事を思うと、変に気を使うのも嫌だし・・・。

男友達にはいいところを見せたかったんだろうな。
ましてや俺は、女の子が苦手ときているし、自分が大人になったんだって思わせたかったんだろう。


「あ、桂さんとこのおばあちゃん。こんばんわ。」
母親が外に向かって言った。

「こんばんわ。ちょっと千早くんに聞きたいことがあってね。」

店先の人を縫って入ってきたのは、桂のおばあちゃんだった。

「こんばんわ。・・・なんですか?」
俺はレジの前から離れると、側に寄って行った。
おばあちゃんの顔を見たのは、試験前に桂に勉強を教えてもらいに行って以来。

「秀ちゃんが入院しているんだけどね、前に彼女さんがいたのは知ってるんだけど、連絡してあげた方がいいんじゃないかって思ってね。千早くんその彼女さんの電話番号分かる?」
「・・え?!・・・桂、・・秀治くん、どうしたんですか?」

桂の事を思い出していたら、そんな話を聞かされてビックリした。

「ああ、別に大げさな病気じゃなくて、ちょっと盲腸が化膿しちゃってね、手術したのよ。」
「え?盲腸?」

・・・っていうか、それって腹膜炎になったんじゃないのか?
充分心配な部類だろう?!・・・・・


「千早くん、知ってたらちょっと連絡してくれないかしらねぇ。」
おばあちゃんは、孫が喜ぶと思っているんだろうけど・・・・・。

二人が別れた事を知っている俺は、ちょっと複雑。
柴田経由で中島さんから連絡は出来るだろうけど・・・・。

あ~、病室が微妙な空気になるのはなぁ~~~~。

「わかりました。俺が連絡しておきます。・・・あ、これに病院と部屋番号書いといてください。渡しますから・・・。」
「そう?ありがとうね。あの子遠慮してるから、言わなくていいって・・・。でもねぇ・・・。」
おばあちゃんは、メモ用紙に記入すると俺に渡しながら苦笑いをする。

おばあちゃんの気持ちは痛い程分かるけど、桂が言わなくていいって言ってるんだ。
そこら辺がねぇ・・・・・・・・・・。



次の日、クリスマス当日は夕方までお客さんがひっきりなしで、俺も忙しかった。
アネキは、デートとか言って店の手伝いはしないし、父親はいつものごとく店にいた事なんてなくて、朝の青果市場へ行くので仕事が終わったと思ってやがる。あとは商店街のおじちゃん連中と会合だの何だの・・・。

「ちょっと、小さめのアレンジメントしてもいい?」
客足が少しだけ引いたころ、母親に聞いてみた。

「いいわよ。桂くんのところ?」
「うん、一応昨日聞いたしな、お見舞い行ってくるよ。」

「分かった、そこの小さめのカゴに入れておくといいよ。」
そう言ってアレンジ用の籐のカゴを指した。

俺は、自分で色合わせをして、桂への見舞い用の花を生けていった。


自転車にまたがると、病院までの道を急ぐ。
面会時間は夜の8時までと聞いていたから、後40分ぐらいしかない。
必死で自転車をこぐと5階の病室へと急ぐ。


511・・・・
廊下のプレートを確認しながら入ると、そこにはベッドに横たわった桂の姿が・・・。

「・・・千早?!」
俺の顔を見ると桂が目を丸くした。

「オッス。・・・どう?」
ちょっと照れながら近づくと、桂はニコリと笑う。

「ばあちゃんから聞いた?」

「うん、昨日な。・・・大変だったんだって?!腹膜炎って、放っておくとエライ事になるヤツだろ?!」

「ああ、らしいな・・・・。でも、腹痛くて病院に来てるときに倒れたから、早く手当出来て良かったって・・・。」

「切ったんだろ?まだ痛い?」

「少し・・・。だから、あんまり笑わせんなよ!」

「うん、・・・・わかってる。」






しばらくぶりに会話が出来てホッとした俺は、バッグから取り出したアレンジメントフラワーをベッドサイドの棚に置く。

「それ、・・・・千早が?」

「うん、そう・・・。元気になる様に、ビタミンカラーにした。」

小ぶりの籐のカゴには、赤いチューリップとオレンジと黄色のガーベラ。それからクリスマスローズを少し添えておいた。
「クリスマスローズの花言葉、’慰め’だってさ。今のお前にピッタリじゃね?!」
そういうと桂の顔を見る。

「・・・ほんと。でも、千早の口から花言葉が出るなんて・・・キモイ。」
「はあ??!・・・ふざけんなよっ・・・!人が、」
「うそ、凄く嬉しいよ。・・・千早・・・ありがとな。」

「・・・うん。」





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