【曼珠沙華】炎に落ちる 064



 明日も仕事だという友田さんは、終電に間に合うように家を出ると、駅までの道をアネキの車に乗って帰って行った。

優し気な顔をした友田さんが、結構情熱的な人だという事を知った俺は、凄く羨ましくなった。

自分の突き進む道が決まっているっていうか、芯が通っていてカッコイイ。
その延長線上で、アネキとの結婚を考えながらも、方向は見失わない。
女にうつつを抜かしているわけじゃないんだよな・・・・。


天野さんとも違う大人の男のカッコよさだ。

俺もいつか、あんなふうになれるんだろうか・・・・・。

桂はこんな俺の傍にいてくれるんだろうか・・・・・。

なんとなく、先が遠すぎて想像すらできないでいた。




- - - 

「ありがとう千早。」

俺が、風呂上がりに冷蔵庫を漁っていると、後ろからアネキの声がした。

「・・・え?」
振り向きながら聞き返す。お礼を言われるような気の利いた言葉は父親に言えなかったから・・・。

「友田さんの事、尊敬しますって言ってくれたでしょ?!・・・すごく嬉しかったって言ってた。・・・私もよ!」


「ああ・・・・、そんな事。本当の事だもん、別に礼なんて。」
冷蔵庫から牛乳を取り出すと、コップに注ぎながら、アネキの顔を見て言う。

「でも、ほんとにいい人で良かったな。」と、付け加えながら笑みを浮かべれば、アネキも照れくさそうに笑った。


もっと大変な事になるのかと思っていたのに、案外すんなりと事が運びそうで、少し気負っていた俺は拍子抜けしたけど、桂にも今夜の事を話してやろうと思った。

結婚に憧れている桂が、俺には理解できないんだけど、アイツも真面目なところがあるし将来の事とか考えるのかな・・・。

俺と結婚したい・・・・だなんて・・・・。




- - 
次の日、学校から帰った俺は、桂に電話を入れておいたから出掛ける仕度をしていた。
リュックに問題集と教科書を入れると、店に降りて行き、母親に桂の所へ行ってくると告げる。
すると、小ぶりな花束を作っていた母親が俺に手招きをした。

「・・・何?」
近寄る俺に、「これ、天野さんのお店に届けて。」と言った。

「・・・・ぇ?俺?!・・・今から桂の家に・・・。」
そう言ったが、母親は俺を見ると「天野さんに会えないような事したの?」と聞いてきた。

「・・・・そんな事はしてないけど・・・。」

天野さんの手を離して桂の元へ走った俺は、少しだけ後ろめたさを感じていた。
でも、天野さんも送り出してくれたし・・・。そう思う事にしたんだ。

「今日みえてるお客様の誕生日なんだって。注文するのを忘れていたらしいのよ。お願い、千早。」
「う、ん・・・。まぁ、桂には少し遅れるって言っとくからいいけどさ・・・。」

俺は花束を抱えると、そのまま桂の携帯に電話を入れた。
歩きながら、呼び出しコールの音に耳を澄ませる。一応頭の中で、遅れると言う事をどうやって伝えようかと思いつつ、少し気が重くなった。

『あ、千早?もう来る?』
桂の弾んだ声が耳に入ると、少し申し訳なくて・・・。

「ゴメン、ちょっと遅れる。店の手伝い頼まれてさ・・・・。届け物しなきゃなんないんだ。」

『・・近く?』

「・・・うん、・・・・まあ、な。」

『オレも行っていい?』

「は?・・・なんで。」

『いいだろ、散歩しようよ。近くなら帰りにコンビニ寄りたいし。な?!』


「・・・・ああ、分かった。じゃあ、角の信号機の所で待ってて・・・。」
『うん。』


行き先が天野さんの店だと言えなくて、どうしようかと思ったけど、まあ、仕方がない。
直接二人が出会う訳でもないし・・・・。
俺は待ち合わせの場所に急いだ。


桂は信号機の下で待つと、俺の顔を見て手を上げる。
「なに、花束持って行くんだ?!誕生日用?!」と桂が聞いてくるから、うん、と答える。

俺の後を付いて歩きながら、桂は花束を眺めて、ふふっと笑う。

「なんだよ?!」と聞く俺に、「前に、お見舞いに貰ったの思い出した。」と言った。

俺が自分でアレンジした花をカゴに生けて行ったんだけど、桂は喜んでくれたな・・・。
俺も思い出しながら歩くと、またもや桂がふふふッ、と笑う。

「な~んだよキモイな~・・・。ひとりで笑うなって!!」

「だってさ、千早、花言葉言ってたじゃん。・・・・なんだっけ、慰めるとかナントカ・・・。」

「ああ、クリスマスローズの、な。・・・悪かったよ、キモくて。」
「ふふッ、別にキモくないよ。嬉しかったもん。」

隣で笑う桂の顔を見ながら、大通りの横断歩道を渡りきる。

まっすぐ有楽街のある方に進んで歩くと、そのうち桂の笑い声は聞こえなくなった。



「あの人の店か、・・・・それ。」

トーンダウンした口調の桂。
俺と、天野さんの事を気にしていたから、きっと心の中では嫌な思いをしているのかもしれない。

「天野さんは、オーナーさんだから、ほとんどは店にいないんだ。スタッフに渡してくるだけだから、さ。」
そう言って、店の前まで来た。

「ちょっとここで待ってて。すぐに渡したら戻ってくるから。」

俺は、勝手知ったる店のドアを開けると「こんにちは。」と声をかけて中へと入って行った。

「あらッ、千早くん久しぶりぃ!!」
そう言ってくれたのはエリコさんで。

いつもの優しい笑顔で迎えてくれる。

「これ、注文いただいたのですが・・・。」
奥のテーブルに置くと、辺りを見た。
天野さんの姿は無くて、少しだけホッとする。





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