【曼珠沙華】 炎に落ちる076


 居間の隅に置かれた電話台の横で、二人は肩を抱き合ったまま。
しばらく、桂の気が済むまでじっとしておこうと思った。

身内が救急車で運ばれるという事は、ショックな事だ。気が動転したって不思議じゃない。
俺だって、もしも親父やオフクロが運ばれたら.........。
そう思ったら、桂の気持ちもよく分かる。



「......ごめんな、もう大丈夫だから。.......着替えとか、旅行用のバッグに詰めればいいよな。」
桂が俺の背中に回した手を解くと言った。

「そうだな。とりあえずは3日分ぐらいでいいだろ。洗面用具とかタオルとか.........あとは、箸とか?!」

「うん、オレが入院した時のバッグに入れておくよ。ちょっとじいちゃんたちの部屋に行ってくる。」

「うちの母親に聞いてみようか?!何がいるか分かるかも。」

「うん、頼む。オレは着替えを詰めてくるから・・・。」


桂が居間を出て行くと、俺は母親に電話をした。
じいちゃんの様子と、入院先の病院の名前。必要なものを聞いて、最後に、しばらく桂をうちに置いてやってほしいと頼む。

「もちろん。」と快く承諾してもらいホッとした。
この家で、桂を一人きりにはさせられない。


聞いていた病院に着くと、受付の所でじいちゃんの名前を言って病室を教えてもらった。
でも、まだ集中治療室にいるらしくて、その場所に向かった俺たちは緊張する。

「初めてだ、こんな所直に見るのって......。もっと手術室みたいなところを想像していたよ。」

「うん、オレも.......。」

中には入らなかったけど、ガラス越しに見えるのはベッドが見渡せる広い場所だった。
鼻からチューブを入れられて、身体につけられた色々な線。

心臓の波形を映すモニターに目をやると、ピコピコなっているのか、点滅が早くなると俺まで心臓がドキドキしてくる。

「二人ともありがとうね。もう少ししたらおばあちゃんも帰るから。今夜はここで看護師さんが見ているからね、帰っていいんだって。」
そう言ったばあちゃんは、桂の背中をさすりながら、「秀ちゃん驚いたでしょ?!ゴメンねぇ、もう大丈夫だから、今夜は千早くんのところでお世話になってね。」といった。

「いいの?オレが家に居なくても?!」
心配そうに言う桂に、「明日、病室に移ったら連絡するから、それまでは千早くんと居ていいからね。」と言ってくれた。

「分かった・・・。なら、電話して。」

そう言って、もう一度じいちゃんの方に目をやるが、不安は拭えない様だ。後ろ髪を引かれるような気分で病院を後にする。



帰りのバスの中で隣同士に座った俺は、桂の膝に乗せた手を握り締めた。
桂の指先は、夏だというのに冷えていて、触れた俺の手も冷たくなるほど。


その晩は、うちの親たちも静かに食事を済ませ、桂が気兼ねなくいられるように俺の部屋に布団を敷いてくれた。
アネキの部屋が空いてはいたけど、今夜は一緒に居るのがいいと思ったんだろうな・・・。

そういう所は、ホント、気が利くっていうか、優しい人達だと思う。
今日みたいな事があって、初めて自分の親の有難さが分かるっていうか.....。
そうでなくても、この先俺はいろんな意味で親を悲しませるかもしれない。
今のうちに、親孝行もしておかなきゃな、と思った。



「千早の家が近くで良かった。おじさんやおばさんが優しい人で.......、ホントに良かった。」

しみじみ言う桂。
床に敷かれた布団に寝転ぶと、下から俺を見る。

俺は、うつ伏せでベッドに寝転ぶと桂の方に手を差し出した。
「こっち来る?」
自分の隣を指先でトントンする俺。

「..........うん、聞いてくれてよかった。......このまま別々に寝るなんて心細いもんな。」
そう言ってゆっくり身体を起こすと、俺のベッドに滑りこむように横たわった。

少しだけ横にずれると、桂の首の下に腕を回す。
腕枕をする格好で、その腕に体温を感じると、なお一層桂への愛しさが込み上がってくる。
ゆっくり目を閉じ、互いの存在を確かめ合うように抱きしめ合えば、心の底から安堵の表情が浮かんだ。





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