【曼珠沙華】 炎に落ちる079



 学校から戻ると、早速店にいた母親が俺を呼び止めた。

「千早、悪いんだけどコレ、天野さんのお店に届けてきてくれない?」

手にしたのは、小さめの紙袋が4つ。

「え、・・・俺が?」

「ホント、悪いんだけど・・・。」

いつになく、母親が申し訳なさそうに言うから気になる。


「・・・まあ、いいけどさ。このまま行ってくるな。」

「うん、カバンは後で上に持っていくから。」


袋を両手に二つ持って、制服のまま美容室へと向かうが、すごく久しぶりの様な気がした。

大通りに出ると、信号待ちで少し立ち止まった。すると、向かい側に見えた人影を見て嫌な気分になる。
例の、顔にピアスをした男がこっちに向かってくるのだろう、向こうで信号を待っている姿が見えた。

なんとなく、目を合わすのも嫌だけど、逸らせるのは負けた気がして尚更イヤで・・・。
青信号になり歩きはじめた時、何気に顔をあげて見てみる。が、俺の顔を見るでもなく、目を逸らしてアイツは行ってしまった。


「アレ?・・・・なんか・・・・・?」

ちょっと違和感。




「こんにちは。」

美容室のドアを開けて入ると、中にはお客さんが3人。スタッフはエリコさんともう一人しかいない。

「あ、どうも有難う。悪いんだけど、上のメイクルームにいる天野さんに渡してもらえるかな?!」
そう言われ、「分かりました。」と言って上にあがって行った。


メイクルームって、天野さんがメイクしているんだろうか・・・。

階段をあがって行くと、何やら撮影の準備が行われているようで、俺はちょっと足がすくんで立ち止まってしまった。



「ああ、千早くん。有難う・・・」
天野さんがこちらを見ると声をかけてくれた。

「ここに置いておけばいいですか?」
袋をかざして言うが、一瞬手を上げただけで返事がない。
撮影のスタッフに、何か話しかけられている。


仕方がないので、しばらく待つことにすると、邪魔にならない様に隅の方に移動した。
すると、そこにいた女性スタッフの人が俺の顔を覗き込んでくる。

「・・・・・?」
「ねえ、キミ、天野君の知り合い?」

ちょっと後ずさりする俺に聞いてくるから、「はい・・・、まあ。」と言っておく。

「へぇ、・・・ねえ、モデルとかやってみない?」
「あ?・・・・・・・え?」

突然の言葉に唖然とした。
そんな事言われたのは初めてで。モデルっていうのは、雑誌に出ている人しか知らない。

「あの、・・・俺が?」

「そうよ、キミの容姿ってイイ感じ。そのヘアスタイル、学生服とは違和感あるのに、魅力あるわねぇ。」

「え?・・・これが?ただ切るのが面倒なだけで、こんなになってるんですよ。」

「あ、そうなの?・・・でもイイわよ。似合ってるし、綺麗だし。」
と、俺に言った後で、向こうにいる天野さんの所に行ってしまった。



俺は訳が分からずに、ただ天野さんの手が空くまで待っていようと思っただけで、袋の置き場所も指定してもらえないし、両手にもったまま突っ立っているだけだった。


その後で、自分の予期していなかった事が起こるなんて、この時は分かる筈もなく。







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