【曼珠沙華】 炎に落ちる080



 天野さんの視線の先に、ちょっと前の自分を重ねる。

今、鏡の中のモデルに微笑みかけているのは、俺の知っている天野さんじゃないような気がした。



・・・いや、これが本来の天野さんの姿なんだろうな。

俺に見せていたのは、違うベールをまとった姿で...........。



「千早く~ん!ちょっとこっちにおいで。」

モデルの女性を残して俺の方を向くと、手招きをした。


「え?・・・俺ですか?」
「うん、おいで!」

仕方なく、紙袋を脇のテーブルに乗せて天野さんの所へ向かった。

大きな鏡の前に立つと、そこに映るモデルが俺の顔を鏡越しに見る。

彼女は椅子に座っているが、目の周りを赤い紅で縁取られ、その瞳は色味の薄い口紅とは対照的に艶めいていた。

「ちょっと髪の毛触らせて。・・・・伸びたな~・・」

そういうと、結わえたゴムは解かれて、天野さんの手が俺の髪を撫でていく。


「うん、・・・いいわね。千早くんていうのね、可愛い名前。」

さっきの女性が俺の背後に立つと、鏡の中の俺に向かって言った。



なんだか変な感じだ。こんなに知らない人にまじまじと見られて、恥ずかしくなるけど、俺の前にいるモデルと二人で映る姿が別世界のようにも思えた。


「二人でいっちゃう?!・・・・彼に紅だけひいてみてよ。」

その言葉で、天野さんが俺に近寄り赤い口紅を塗る。

俺は固まった。緊張もあるけど、なんだか実験台にされた気分。
女の口紅を塗られて変な感じだし・・・。恥ずかしい・・・・。



「ちょっと、彼女の着物持ってきて。」
スタッフに言ったのは女性の方で、俺は目だけがキョロキョロと忙しく動くだけで、その様子を突っ立って見ていた。

鏡の中のモデルの女性も、ちょっと呆気にとられた顔で周りの人たちを見る。



一体何が始まるんだ?!




俺は、言われるまま着ている服を脱がされて、素肌に女物の着物を羽織らされてしまった。
もちろん下までは脱がされていないけど、完全に乳首は晒された。


天野さんに見られるのも、今となっては恥ずかしいのに、こんな知らない人たちに迄..........。


「あ、あの・・・一体何です?!」
やっと口を開けた俺は、天野さんに聞いてみた。

「ああ、ごめんごめん・・・。ちょっと美容師向けの雑誌があってさ、そこに入れる写真を撮るとこなんだけどね。」

「・・・はあ、・・・美容師向け、ですか?!」

「そう、撮るのは彼女なんだけどさ。・・・千早くん気に入られたみたいだね。」

「ええ??・・・いや、俺写真とか、雑誌に載るとか・・・マジで勘弁してくださいよ。」

焦って言うが、天野さんはニッコリ微笑むだけで、執り合ってくれそうにない。
こんな格好で何かの雑誌に載るとか、あり得ないよ。ホントに参った。




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