【曼珠沙華】 炎に落ちる084



 心地よいジャズの音が、目を閉じた俺の脳内をリラックスさせる。

そんな美容室のBGMに混じって、女性の囁くような声が聞こえるが、気にするのも面倒で黙っていた。

毛先を整えた天野さんはハサミを仕舞い、俺の髪を両手で持ち上げるとバサリと降ろした。

濡れた髪が艶っぽくて、微妙に出たウェーブは普段の俺とは違う雰囲気を醸し出している。

いつもは自分の顔をこんなに見ることはないのに、あの写真を見た後だと、どう違うのか気になるところだ。

自分では、女みたいな顔だと思ったことはないんだけど、この髪型のせいで言われる事はあった。

天野さんに言わせると、母親似という事で・・・。



「男の子で長髪の似合う子ってなかなかいないんだけど、千早くんはずば抜けて似合うね。ホント、モデルをするといいのに・・・。」

俺の肩に手を乗せると言うが、すぐにクスッと笑った。
「まあ、そんな気はないんだろうね。」

鏡の中の俺の顔は、全く興味のなさそうな表情で、俺の性格を分かっているのか、天野さんはそれだけ言うとドライヤーのスイッチを入れる。風に煽られて、俺の長い髪は気持ちよさそうに揺れた。



すっかり乾いた髪に、甘い香りのヘアーオイルをつけてもらうと、軽く指先でセットされる。
全てが終わって、俺が椅子から立ち上がると、こちらを見ていたエリコさんが近づいて来た。


「千早くん、これからモテちゃって大変よ?!さっきのお客さんも、この写真の人誰ですかって・・・・お客さんって教えたら、キャーって、喜んでたのよ。そしたら入ってくるもんだから・・・」

「ああ、それで・・・・・。けど、俺なんて子供ですから・・・。」

そういうと天野さんの方を見た。心の中で、なんとかしてほしいと思うばかり。
女の子にモテても嬉しくないから・・・・・・・・。


「ホントは、ちゃんとギャラが発生するんだけどね。千早くんの場合はお客さんって事になってるからさ。その方が学校の手前いいだろうし。ちゃんと埋め合わせはするから。」

「いや、いいですよ、カットしてもらっただけで・・・。じゃあ、有難うございました。」
「うん、またおいで。」「はい・・・。」

俺は、天野さんとスタッフに見送られ、美容室のドアを開けると表へ出た。


「- - 千早!」

声のする方に顔を向けて見ると、店の横のマンションの入り口で桂が立っていた。

「・・・桂・・?!」

久しぶりに会った桂に、思わず笑みがこぼれるが、俺とは反対に桂は険しい表情で......。



「何してんの?......... 千早、遊んでんの?」

俺の前で仁王立ちになって、腕を組むと桂は言った。

「え......?! 別に遊んでない。カットしてもら.....」
「チャラチャラしてる場合か?もうすぐ受験なのに・・・・。俺が勉強みてやる時間無いからか?」

そんな事を言われて何も言い返せないが、桂の言い方はさも俺が勉強そっちのけで遊んでいるように聞こえた。

「別に遊んでないし。・・・なんだよ、エラそうに・・・。先生か?!」

「もっとまじめにやれよ。モデルだかなんだか知らないけど、こんな写真撮られていい気になってる場合じゃないだろ!」
桂の右手には、何処で手に入れたのか、あの雑誌が丸めて握られていた。

「.............いい気になんか、..............」
俺は言葉を呑み込んだ。



「- - - どうした?」


ドアから顔を出して、天野さんが俺と桂に声をかける。
その表情は、ちょっと驚いているようだったが、桂と目が合うとニヤッと口元を上げた。

「良かったら上の部屋に来ない?オレ、桂くんと話したいんだよね。」
天野さんは、桂の背中にそっと手を当てると、促す様にマンションのエントランスに移動させる。

「・・・オレも、あなたに言いたい事あるから、丁度良かった。」

「え?!・・・何言ってんだ、桂・・・」

俺ひとりが戸惑って焦るが、天野さんと桂はエレベーターの前まで歩いて行く。


- なんだかヤな感じだなぁ.............。




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