【曼珠沙華】 炎に落ちる089




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小さな庭の片隅で、木蓮の花が咲くころ。

北を指す木蓮の蕾が大きく開くと、それはあっという間に散ってしまい、地面に落ちた大きな花びらを掃いて集めるのは、俺の仕事となっていた。

桂の家の縁側で、頭に巻いたタオルを取り、長いほうきを傍らに置くと座り込む。

「おじちゃん、もう休憩してるの?まだ5分も経っていないよ。」

声のする方を向くと、今年小学校3年生になった甥の『謙』がアイスを舐めながら立っている。

「お前だってオヤツ食べてるくせに。」
そういうと、俺は縁側から部屋に上がり込んだ。

「お母さんが食べていいって言ったんだもん。おじちゃんの分もあるってさ。」

「へぇ、それは有難う。・・・・あ、言っとくけど、今度俺の事をおじちゃんって言ったら口きいてやんねぇから。俺の事は『小金井くん』・・・分かった?」

「・・・『小金井くん』・・・って、トモダチみたいだね。」

「そう、俺と謙はトモダチ。お母さんにも言っとけよ、おじちゃんと呼ぶなってな。」

「うん、分かった。おじ、・・・小金井くん。」

「よし、・・・じゃあ、俺の分のアイスも食っていいぞ。」

「やったーッ。小金井くん有難う。」

バタバタと台所へ走る後ろ姿を見ながら、クスッと笑う俺。


『謙』は、俺のアネキが8年前に産んだ子供で、俺が大学へ入ったのと同時に、結婚したアネキと友田さんは、すぐに謙を授かった。

19歳で伯父さんになってしまった俺は、謙が喋れる頃から自分の事を名字で呼ばせている。
流石に『ちはや』と呼ばせるのは悔しくて、せめて『小金井くん』にしたんだけど、アネキが俺をおじちゃんと呼ぶもんだから、しばらく顔を見ないとすぐに戻ってしまうんだ。

そんな俺も今年で28歳になり、もう若くはないな、と感じるこの頃。

昔の純粋な頃が懐かしくもあるが、今でも俺と桂は仲良くやっている。

ただ、大人になるという事は、それぞれに我慢を強いられることも多くて、土木建築業についた桂は忙しく、昔の希望通り友田さんを見習って橋を架ける仕事に就いていた。自然に、俺とは顔を合わせる時間が減る。

しかも、時々は海外への出張もあって、ひと月やふた月、顔を見ない事もあった。

大学の頃はもう少し時間もあって、二人で国内旅行を楽しめていたのに・・・・。
まったく、桂の真面目人間ぶりは変わらずで、仕事人間というか融通が利かない。


俺は、というと、大学を卒業してアパレル会社に入ったが、どうも自分のやりたい事と違ってきてしまい、たった2年で辞めてからは職を転々と変えていた。でも、天野さんの口利きで、雑貨の輸入や販売をするようになると、年に2~3回は海外への買い付けにも行くようになる。今では小さな雑貨屋のオーナー。

桂の家では、身体が不自由なじいちゃんの世話で、ばあちゃんの負担も大きかったし、桂にも遠慮したのか、二人が老人ホームへ入ってしまうと、残された桂は一人きりになってしまった。

そんな桂が可哀そうで、それ以来俺は、ほとんどここに居候状態。
忙しい桂は、庭の手入れなんか出来ないし、俺がするしかなかった。


「小金井くん、お母さんには僕がアイス2個も食べたって言わないでよ?!」
そう言いながら、タバコをふかす俺の後ろで、謙が大きなアイスのカップを抱えている。


「おう、分かったよ。内緒にしといてやる。その代わり、後で草むしり手伝え。」

「うん、いいよ。」

ニコッと笑いながら、大きな口にアイスをすくって入れる。そんな謙の姿に、少しだけ癒される俺だった。


木蓮の木に目をやると、かろうじて残った花は、落ちるのが惜しいのか必死で耐えていた。
なのに、強い風に煽られると、大きな花びらはいとも簡単に地面へと落下する。

「あ~あ、さっき掃いたばかりなのに......。」

タバコをもみ消すと、俺はまた縁側から庭に降りて行った。






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